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『小泉政権後の中日関係の展望』シンポ、上海で開催(中)
2006 -9 - 25 17:35

 日本自民党新総裁に選出された安倍晋三官房長官は次期首相に就任する直前、『小泉政権後の中日関係の展望』国際シンポジウム(中国中日関係史学会と同済大学アジア太平洋研究センター共催)が23日から24日にかけて上海同済大学にて開催された。(上)(中)(下)に分けて報告する。

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 シンポジウム会場

 日中関係学会評議員、東京新聞論説委員・川村範行氏が分科会で、「現代日本のナショナリズム」、「日本の政治経済改革と政治変動」、「安倍新政権への懸念」、「ナショナリズム克服への対策」を巡って報告した。川村氏の同意を得て、全文を本ネットに掲載する。(編集:章坤良 写真も)

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報告を行う川村範行氏(中央)

 一、総論

 小泉政権の5年半の間に、日中関係は政治的な対立によって国民感情の悪化をもたらした。小泉首相の靖国神社参拝に代表される歴史問題が直接の引き金になったが、日中双方で顕在化した排外的ナショナリズムの伸張が今後最も懸念される。現代日本のナショナリズムの主な原因とみられるのは、バブル経済崩壊後に生じた伝統的な雇用形態、地域社会、家族関係のそれぞれ崩壊による個人レベルの様々な不安感のほか、対テロなど社会を覆う不安感が大きい。これはグローバリゼーションによる新自由主義、市場原理主義の浸透、さらに米国主導の国際的な対テロ活動による恐怖感の拡散に伴う、新たなナショナリズムの勃興ととらえることができよう。安倍新政権は小泉政権以上に国家主義的、復古主義的であり、日本国内のナショナリズムの拡張を昂進する危険性がある。両国の政治主導者や政府が排他的ナショナリズムを煽らないように慎重かつ細心の内外対応をすることが、小泉時代より更に強く求められる。ナショナリズムへの対応を誤れば日中関係の改善は今後長引く可能性が高く、東アジアの地域連帯と協調に負の影響を及ぼす。日中両国間の官民各界の交流チャンネルを強化し、両国が東アジアでの協力?協調関係を構築していくことが肝要である。

 二、現代日本のナショナリズム 

1、日本国内には多様な形でナショナリズムが噴出し、複雑に絡み合い、相互促進的に強まっている。主に4種類のナショナリズムに分類される。北朝鮮のミサイル発射によって昂じた他国からの脅威に対抗しようとするナショナリズム熬国や韓国からの歴史問題批判に対して反発するほか、一部は自虐史観を否定し過去の戦争を肯定しようとするナショナリズムである。以上の二つは排外的ナショナリズムである。また、個人の尊重よりも国家への愛国を強制しようとするナショナリズム竡s場主義に対抗し日本文化の優位性を主張しようとするナショナリズムがある。後者の二つは日本のアイデンティティを強めるナショナリズムととらえることができる。

2、1980年代からの日本のナショナリズムの経緯を分析する必要がある。

(1)1980年代には、先の戦争が中国侵略か中国進出かをめぐる教科書問題(82年)と中曽根康弘首相の靖国神社公式参拝(85年8月15日)が原因となった。つまり国家指導者間のナショナリズムと戦争責任をめぐる対立だった。中国と韓国では反日行動が起きたが、当時は両国政府が強権的な政権で統制力を維持していたので政府レベルで問題を収めることができた。

(2)1990年代には村山富市首相の戦後50周年談話(95年)、即ちアジア諸国の人々への謝罪表明をきっかけに、日本国内では戦争責任へ反発する動きがでてきた。橋本龍太郎首相の靖国参拝(96年)や、新しい教科書を作る会の結成(97年)があった。アジアからは戦争責任と補償を求める民衆レベルの運動が表面化し、民衆レベルを含めた対立へと変化した。中国や韓国では国家が民衆の意思を抑制してきた時代が終わりを迎える。

(3)2000年以降の小泉政権下では、日中韓での政治レベルの対立と民衆レベルへのナショナリズム浸透とが相乗的に顕在化した。小泉首相が靖国神社参拝を公約したのは自民党総裁選挙に勝つため、日本遺族会の支持を得ることが目的だった。毎年靖国参拝を強行したのは、これを容認する世論があったからである。小泉首相が「中国や韓国の反対に屈するな」と声高に叫び参拝を継続するたびに、民衆レベルでも共感を呼び支持率が上昇した。排外的ナショナリズムをますます高める結果になった。

 3、従来のナショナリズムとの違いを分析する。

(1)現代日本のネットの書き込みには中国、韓国への反感が直接表れている。中国や韓国でもネットで日本への過激な批判が噴出している。3カ国に共通しているのは、社会流動化に伴い組織から脱落する若者の個々の不安感の反映とみることができる。若者の雇用問題と東アジア規模でのナショナリズムの問題は共通の土台で考えることができよう。国家と国家がぶつかり合う従来のナショナリズムと、寄る辺のない個人によるナショナリズムとの識別が必要である。

(2)中国が急成長し日本と対等なプレーヤー、競争相手になり、生産基地として台頭してきたことへの反発と恐れがある。中国を経済的な「敵」として視ることで、軍事的な中国脅威論と奇妙に一体化してしまった。

(3)日本の社会流動化と高度消費社会化は、新興富裕層「上流」と新貧困層「下流」を生み出した。若者の雇用不安を助長し、彼らの心理?感情がネットで中国や韓国への反発・攻撃に向かう傾向がでている。これは政府の統制の及ばないものであり、国内問題への不満が対外的な歴史問題に結びつく形だ。  

三、安倍新政権への懸念 

1、歴史認識の後退;安倍晋三氏は祖父岸信介元首相のDNAを受け継いでいる。岸信介は満州国の建設に重要な役割を果たし、戦後の極東軍事裁判でA級戦犯となったが、その後釈放されて政界に復帰、自民党総裁として首相を務めた。岸首相の特徴は日米安保条約の改定にあたったことである。安倍新首相は先の大戦をアジアへの侵略戦争と認めず、同時に極東裁判についても戦勝国の一方的な裁きによるものだとして認めず、いずれも「後世の歴史家の評価に委ねる」と表明している。これは日本が極東軍事裁判の結果を受け入れてサンフランシスコ講和条約に調印し、国際社会への復帰を実現したという戦後日本の出発点を覆すことになる。歴史認識の後退どころか、歴史認識の否定である。日本の首相がこのような歴史認識を示すことは、アジア諸国はもちろん、国際社会からは認められないことである。

2、靖国参拝支持;安倍氏は小泉首相の靖国参拝を支持しており、自身も靖国参拝を肯定している。その理由は、先の大戦で命を落とした日本人兵士たちの霊を慰め哀悼の意を表明するのは当然のこととしている。A級戦犯が祭られていようが、問題としていないのである。こうした考えに対して、既にアメリカの議会からは靖国神社への批判と首相の靖国参拝を非難する動きが出ている。 

3、アジア外交の姿勢;安倍氏の外交姿勢は小泉首相と同様に日米関係を強固にすることを第一に挙げている。次にアジアとは強い信頼感を築くとしており、中韓とは首脳会談の再開を目指している。安倍新政権は小泉時代に途絶えた首脳会談を再開させるために中国側との交渉を続けている。だが、安倍氏自身が日中国交回復時に中国側が一部の軍国主義者と一般の日本国民を区別し、戦時賠償を放棄するとした二分論について「外交文書にないので与り知らない」と認めようとしない。これは日中関係の基礎を覆す発言であり、誤った認識である。日中関係の改善に取り組むにあたって、このような発言は大きなマイナスである。安倍氏が発言を修正しない限り、首脳会談の再開は難しいだろう。

4、憲法改正へ強い意欲;安倍氏は海外での米軍との共同行動を進めるため集団的自衛権の行使を可能にする意図を公言している。日本政府は戦後の平和憲法のもとで「集団的自衛権はあるが行使はできない」との見解を堅持してきた。これを崩すことになり、自衛隊が海外で武力行使が可能になる。戦後日本の安全保障政策の一大転換になり、アジア諸国などからも警戒感が増すだろう。

四、ナショナリズム克服への対策

1、政府の責務は、領土領海問題などで政治外交問題に発展することを防ぐべきである。あくまで話し合いによる解決、共同運営を目指すべきである。同時に、政府広報の改善に務めるべきである。政府スポークスマンは相手国の世論に配慮した広報方法がより一層求められる。強硬な態度による広報がテレビなどにより相手国に報道されると、一般民衆から感情的反発を招く可能性が高い。ひいてはそれが相手国へのイメージ悪化につながる。

2、政府は国民の雇用・生活面の不満や不安の増大を防止するため、格差是正や社会保障などの経済社会政策を充実させる必要がある。

3、メディアの責任も大きい。中国側は昨年4月の反日デモ以降、メディアのコントロールを実施しており、反日的な報道が減ったことは評価できる。しかし、日本は基本的に言論出版、報道の自由があり、反中的な内容の出版物や報道も多い。この点のコントロールは事実上難しい。メディア関係者が相手国の国情を理解するために年間1千人規模の記者交流を提言したい。特に地方紙の記者の派遣は「百聞不如一見」で効果的である。

4、双方の学者・研究者が近現代に関する歴史共同研究に取り組み、基本的な「歴史事実」を共有する作業を積み重ねて、これを双方の歴史教育にも副読本などの方法で取り入れるよう希望する。既に日韓両国は歴史の共同研究を進め、中韓報告を発表した。また日中韓の学者・研究者有志は歴史共同研究を実現し、共通の歴史教科書を出版し、一部の学校で副読本として使用している。こうした実例を参考にしたい。日中関係の根底に横たわる歴史問題を放置したままでは、真の戦後和解、相互和解を果たすことはできない。

5、ヨーロッパが第二次世界大戦後に和解の努力をした道筋を参考にしたい。宗教者の交流から始まり、青少年の相互訪問を活発に続けた。特にフランスとドイツは政府間で1960年代に条約を結び、毎年の政府首脳交流煌O交、国防、教育の主要閣僚の毎年数ヶ月ごとに定期協議癘年2万人規模の青少年交流などを具体的に盛り込み、実行した。日中間はまず首脳交流の再開を果たすこと、次に主要閣僚の定期協議を増やすこと、さらに今年から始まった年間2千人規模の高校生交流の規模を拡大すること、宗教者の交流を定期化することを提言する。

五、結語

 安倍氏はアジア外交、対中政策について明確な表明をしていない、あいまいなままである。安倍氏が9月26日の臨時国会で首相に選出されたあと、まず29日の国会で所信表明演説を行い、10月2日から与野党の代表質問が始まる。ここで安倍新首相がどのように具体的に対中政策を表明するかがカギであり、中国側は冷静に正確にその内容と意図を分析する必要がある。その内容と意図によって、日中首脳会談を再開することができるかどうか、判断が分かれる。私は、将来的には日中双方が日中関係の改善に向けてねばり強く話し合い、打開策を見つけていくことを希望する。

 主要参考文献・資料 

丸川哲史「日中100年史―二つの近代を問い直す」

高原基彰「不安型ナショナリズムの時代」、宮部彰「ナショナリズムの現在」

内藤光博「憲法改正状況から見た日本の右傾化研究」

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略歴 川村範行

1951年生まれ。1974年、早稲田大学政治経済学部卒業後、中日新聞社入社。編集局社会部、外報部各デスク、上海支局長(1995年―98年)、社長室秘書部長を経て、2003年から東京本社(東京新聞)論説室論説委員。日本中国関係学会理事・評議員。同済大学亜太研究中心客員研究員。

関連報道:『小泉政権後の中日関係の展望』シンポ、上海で開催(上)

http://jp.eastday.com/node2/node3/node17/userobject1ai25247.html

 

 

 

 
 
 

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