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「日中戦後和解のための努力を」=川村範行氏(写真)
2007 -11 - 21 15:39

      

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中日関係を語る川村範行氏=撮影・章坤良

(日中関係学会評議員、中日新聞社出版部長・東京新聞前論説委員)

一、序論(前言)

 日中関係は国交正常化以降の「伝統的日中友好」から「戦略的互恵関係」へと局面転換が図られ、新しい時代に入った。昨年10月の安倍晋三首相・胡錦涛国家主席首脳会談に続き、今年4月の温家宝総理・安倍首相首脳会談を通じて戦略的互恵関係の中身を固めたことは重要だ。日中関係の新たな枠組みの構築に向けて両国首脳や政府関係部門においては協力・協調の姿勢が顕著になってきた。しかし、両国間の国民感情は未だ好転しておらず、楽観は禁物だ。根本的には戦後和解の促進と排他的ナショナリズムの克服に向けて双方の官民共に一層の努力が必要になる。

 二、国民感情の修復 

 温家宝総理は訪日目的として「戦略的互恵関係の確立」とともに「国民感情の修復」を掲げたが、これは極めて重要な点だ。

 1、日本外務省が06年12月9日に公表した外交世論調査によると、日中関係について「良好だと思わない」が70、7%で、05年の71、2%より0、5ポイント減ったにすぎない。「良好だと思う」は21、7%で前年の19、7%より2ポイント増に留まった。小泉内閣の5年半に靖国参拝問題などで日中関係がこじれて対立し、国民感情にまで悪影響を及ぼしたが、それが根強く残っていると推測される。国民感情の改善は容易ではないだろう。

 2、昨年10月の首脳会談で、安倍首相は中国の平和的発展が国際社会に大きな好機をもたらしたことを積極的に評価し、胡錦濤主席も戦後日本の平和国家としての歩みを積極的に評価したことは、日中関係史上初めてのことで極めて重要である。だが、日本ではいまだに「中国脅威論」が消えず、中国でも「日本軍国主義復活論」が依然としてはびこっていることは否定できない。両国の指導者がお互いに相手国の客観的な実像を認めた意義は大きいが、この認識を国民レベルにまで浸透させる努力が必要である。

 3、私は胡錦涛主席の来春訪日に向けて提案したい。胡錦濤主席は昨年4月の訪米でブッシュ大統領の母校エール大学で中華文明の歴史から説き起こして講演し、中国文庫を寄付して好評を得た。これにならって福田康夫首相の母校早稲田大学で、第十七回党大会で承認された「科学的発展観」や「和諧社会」の方針を具体的に説いて中国がどこへ向かうのか、日本とどのように協調して東アジアの新秩序や世界秩序をつくっていくのかを講演するチャンスだと提案したい。同時に学生との自由な質疑応答を実現するとよい。胡錦涛主席の講演を日本のNHKが中継放送するように一層効果的なので、日中双方で協力してほしい。中継放送を通じて日本国民が抱いている中国への不安や不信、反発を、胡錦涛主席の口から直接払拭することができれば意義は極めて大きい。

 同様に、福田首相は訪中の際に胡錦涛主席の母校・精華大学で講演し、中国を敵視せず中国と「共存共栄」を図っていくという対中政策を丁寧に説明し、これを中央電視台が中継放送すれば中国国民に日本の真意を訴えることができる。

三、現代ナショナリズムへの対応

 1、日本国内には1990年代後半から多様な形でナショナリズムが噴出し、複雑に絡み合い、相互促進的に強まっていることを認識する必要がある。主に4種類のナショナリズムに分類される。 @1990年代末の北朝鮮のミサイル発射によって昂じた他国からの脅威に対抗しようとするナショナリズムA中国や韓国からの歴史問題批判に対して自虐史観を否定し、過去の戦争を肯定しようとするナショナリズムである。以上の二つは排外的ナショナリズムととらえることができる。また、B個人の尊重よりも国家への愛国を優先し、強制しようとするナショナリズムC日本文化の優位性を主張しようとするナショナリズムがある。後者の二つは日本のアイデンティティを強めるナショナリズムととらえることができる。

 2、従来のナショナリズムとの違いを分析する。現代日本のネットの書き込みには中国、韓国への反感が直接表れている。 @一般的な日本人は、軍事覇権の意図など捨てて平和を生きてきただけなのに、なぜアジアへの贖罪意識を何時までも指摘されねばならないのかという疑問と反発が頭をもたげている。A中国が急成長し日本と対等なプレーヤー、競争相手になり、生産基地として台頭してきたことへの反発と恐れがある。中国を経済的な「敵」として視ることで、軍事的な中国脅威論と奇妙に一体化してしまった。B日本の社会流動化と高度消費社会化は、新興富裕層「上流」と新貧困層「下流」を生み出した。若者の雇用不安を助長し、彼らの心理・感情がネットで中国や韓国への反発・攻撃に向かう傾向がでている。国内問題への不満が対外的な歴史問題に結びつく形だ。

 3、2000年以降の小泉政権下では、日中韓での政治レベルの対立と民衆レベルでのナショナリズム浸透とが相乗的に顕在化した。小泉前首相が毎年靖国参拝を強行したのは、これを容認する世論があったからである。小泉前首相が「中国や韓国の反対に屈するな」と声高に叫び参拝を継続するたびに、国民レベルでも共感を呼び支持率が上昇し、排外的ナショナリズムを益々高める結果になった。

 4、中国や韓国でもネットで日本への過激な批判が噴出している。3カ国に共通しているのは、社会流動化に伴い組織から脱落する若者の個々の不安感の反映とみることができる。若者の雇用問題と東アジア規模でのナショナリズムの問題は共通の土台で考えることができよう。国家と国家がぶつかり合う従来のナショナリズムと、寄る辺のない個人によるナショナリズムとの識別が必要である。政治的指導者は国内政策において若者の雇用を安定させるとともに、拝外的ナショナリズムを煽る様な言動を戒めるべきである。

 四、共存共栄への交流増進

 中長期的視野から官民双方における交流の拡大強化を図る必要がある。東アジアの歴史上初の大国同士の共存共栄のあり方をお互いに構築しなければならない。

 1、戦後和解への努力 

 独仏両国が戦後和解のために1963年に締結したエリゼ条約を参考にしたい。条約では@毎年2回の政府首脳交流A主要閣僚の毎年数カ月ごとの定期協議B外交重要事項の事前協議のほかにC毎年15万人規模の青少年交流などをうたった。

 (1)日中間でも今後、政府首脳交流を毎年続けて軌道に乗せるとともに、主要閣僚の定期協議を増やし、さまざまな政策テーマについて共同取り組みを増やしていくことが必要だ。同時に、民間企業レベルでは経済成長を続ける中国に対し日本の先進的な省エネ技術や公害・環境対策技術を供与、協力することなど双方にプラスとなるプロジェクトを推進するべきだ。

 (2)特に民間交流として06年から始まった年間2千人規模の高校生交流の規模を万単位にまで拡大充実することを提唱したい。日本で長期ホームステイした高校生の感想文は国際交流基金のホームページに紹介されており、「日本人の優しさに接して日本観が変わり、日本へ留学したい」という声もあった。この効果は大きく、今後も交流規模を拡大していく必要がある。次の世代を担う若者たちが直接交流し相手国を真に理解する貴重な機会を増やす必要がある。同時に中国側も日本人高校生のホームステイ受け入れを増やすように要望したい。

 2、歴史認識の克服 

 日中歴史共同研究が昨年12月、北京の初会合でスタートし、古代・中近世史及び近現代史の二つの分科会で作業を進め、日中平和友好条約締結30周年の08年に研究成果をまとめる予定である。歴史認識については日中双方で隔たりもあるが、政治から切り離して共同研究のテーブルに着いたことは一歩前進と評価できる。日韓歴史共同研究が05年に中間報告を出し、近現代史で対立する見解については両論併記としたことを参考にしたい。日中間でも異なる見解についてはまず、お互いの根拠となる史料、史実を確認するところから、「歴史事実」の共有と理解を進めていくことが必要だろう。日中関係の根底に横たわる歴史認識問題を放置したままでは、真の戦後和解を果たすことはできない。

 3、戦後フランスが大きな心を持ってドイツを許した。ドイツもこれに応えて政府首脳自ら被害国に許しを請い、和解と理解を得るためのさまざまな施策や取り組みを続けた。日中両国も、仏独のこうした姿勢と取り組みに学ぶべき点が多い。

 五、結論

 1、最後に、文化交流の重要性を強調したい。昨年10月、東京の日本記者倶楽部で中日新聞東京本社が日中文化交流協会と共催で日中文化フォーラムを開催し、中国作家協会主席の鉄凝氏を招いて記念講演をして頂き、「日中文化新時代を開く」をテーマに討論会を行った。私はその企画・コーディネーターを務めたが、日中双方の文化の相違について深い議論を交わすことができた。鉄凝氏が講演の締めくくりに日本の童謡「夕焼け小焼け」という歌を歌ったことが驚きだった。戦時中に某村に駐屯した旧日本兵たちが毎日夕暮れ時にこの歌を歌って行進したと、鉄凝氏は父親から聞かされたという。鉄凝氏はこの歌に怖いイメージを描いていたが、訪日して日本人の文化人から「夕暮れとともに子どもたちが優しい母親の待っている家路につくとき口ずさむ歌だ」と知らされ、実際に日本人の優しい心情のあふれるメロディーを聞いて改めてその意味がわかったと述べた。鉄凝氏の講演は、一緒に童謡を口ずさんだ会場の一般市民約500人に一層深い感動を与えたのである。

 つまり、日中両国民の相互理解とは、「夕焼け小焼け」の歌の真の意味を知って一緒に口ずさむことができるような関係を理想とするのではないだろうか。そのためにさまざまな分野の文化交流を積極的に進め、政治・外交・経済面の交流では埋めることのできない相互理解、相互信頼を促進することが重要である。

2、昨年10月8日の安倍・胡錦涛首脳会談後の日中共同報道発表は「共通の戦略的利益に立脚した互恵関係の構築に努力し、また、日中両国の平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展という崇高な目標を実現することで意見の一致をみた」と表現した。昨年の日中首脳会談は「日中両国は国交正常化以降、相互依存が更に深まり、日中関係が両国に取り最も重要な二国間関係の一つになったとの認識で一致した」。日本は今後、官民共に偏狭なナショナリズムを減少させる努力をし、中国との競争的な共存共栄を目指すことを対中政策の基本とすべきだろう。

 同時に「中華振興」を掲げる中国はやはり偏狭なナショナリズムを刺激しないように、現代日本の客観的な実像を国民に伝える努力をするとともに、官の往来だけでなく草の根の民間交流の促進に一層力を入れるべきだろう。

【主要参考文献・資料】 

丸川哲史「日中100年史―二つの近代を問い直す」

高原基彰「不安型ナショナリズムの時代」、宮部彰「ナショナリズムの現在」

内藤光博「憲法改正状況から見た日本の右傾化研究」

【川村範行略歴】

 1974年、早稲田大学政治経済学部卒業後、中日新聞社入社。編集局社会部、外報部各デスク、上海支局長(1995年―98年)などを経て、2003年から東京本社(東京新聞)論説室論説委員。07年6月から名古屋本社出版部長。日本中国関係学会評議員、同済大学亜太研究中心顧問、鄭州大学亜太研究中心客員研究員、北京城市学院客座教授。

 
 
 

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