(東京新聞・中日新聞論説委員川村 範行)
「たった2度の海外勤務が、いずれも日本で縁があります」。質疑応答を除き、流暢な日本語で通した。中国が送り込んできた大物大使だ。
日中関係は「最も重要な二国関係」と重視するが、阻害要因の歴史問題と国民感情に懸念を示す。
では、日中関係の改善にどう取り組むか。国交回復期の日中共通声明など3件の政治文書が「指導的な原則で、問題を処理する基準である」と指摘。「この原点に返り、政治的決断と知恵に学び、行動も持って順守する」よう強調した。
そのうえで「歴史に拘るのではなく未来を切り開く」「子々孫々の有効へ強固な基盤をつくる」「共にアジアを振興する」という方向性を示した。日本がどうこたえるか。日中双方で共通利益のための新たな地域協力の具体案を示す時である。
小泉首相の靖国参拝には「日本独特の死生観は承知しているが、完全に日本の内政とはいえない。内政を超え、外交問題になっている」と強い調子で翻意を促した。「戦争は一握りの戦犯が起こし、日本の国民も被害者であり、友好のためにと戦時賠償を放棄した」と繰り返し述べたのは、双方が原点に立ち返るべきだとの意向からだろう。
質問に対し「中国に愛国教育はあるが、反日教育はありません」と反論。子々孫々に友好をと教えてきたこと、残留孤児を育てあげたことなどをあげたが、両国民の感情が絡んだ現在の情況をどう克服するか。
恒例の揮ごうは達筆で「客観 公正 友善」。客観と公正は歴史問題などへの対処も指すのだろう。友善は「友好と善意」の意。大物大使の任期中に、両国関係が善意に基づき好転することを期待する。
( 日本記者クラブ会報より 写真:章坤良 )
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