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小豆島旅行記(二)

2017年 2月 4日16:08 編集者:兪静斐

  作者:銭暁波

 前回の続きである。

 小豆島めぐりバスツアーの最初のスポットは銚子渓自然動物園の「お猿の国」である。

 動物の餌取りも一種の芸当のようなものであり、それをみるのもわれわれ人間のお楽しみの一つである。そこも観光客の到着に合わせて餌付けすることになっているらしい。放し飼いのサルたちは随分慣れっこなものなので、人がつぎつぎとやってくるのをみて、あちらこちらから餌付けする場所へ集まってきた。「お猿の国」では観光客が檻に入って餌付けするルールになっているため、興味がある人たちが組に分かれて檻に入っていく。それをみて、さきまでもの静かだったサルの群れは、一斉に騒ぎだし、ムズムズと興奮しはじめた。生きるエネルギーを獲得しようと競い争うことはもちろんサルだけではなく、人間を含め、世のあらゆる動物の本能である。檻の網目から餌が突き出された瞬間、サルたちはいきなり牙を剥き、けたたましい叫びを発しながら恐ろしい形相で我先にと餌を貪りに奪い取った。

 見慣れた風景だが、想像以上に弱肉強食の世界である。

 次のスポットへ向かう途中でバスガイドは一つの余談を披露してくれた。

 ガイドさんに曰く、この「お猿の国」には500匹ほどのサルが飼育されている。数は断然少ないが、近くの寒霞渓にも野生のサルが生息している。専門家の話によると、飼育されているサルの毛並みは野生のサルほど良くないらしい。その原因はほかならぬ、餌付けによるストレスであったという。話が終わったガイドさんの顔に会心の笑みが浮かんだ。小生もそれにつれられてクスッと笑ったが、深く考えなかった。

 帰りのバスでなぜかさきの余談が気になって、しばらく考え込んだ。「お猿の国」で目撃したあの餌を奪い合う光景は、どこかでみたことがあったような気がして、一生懸命思い出そうとした。そうだ…なるほど。さすが同じ霊長類だけあって、われわれ人間界においてもさきの光景は日常的に繰り広げられているのではないだろうか。いや、さきのよりも一段二段とも激しいかもしれない。

 人間界における飼育のシステムはもちろん「お猿の国」のそれよりもはるかに複雑かつ陰微である。奪い合うテクニックにおいてサルの類は到底人間の知恵に比することはできない。しかし、「飼育のメカニズム」によるストレスの発生という結末はさほど変わらないのであろう。餌を奪い合う欲望や力があっても野生で生きていく勇気がないのは、多くのサルと人間の共通するひ弱さなのか。

 などのたわいのないことを考えながら、つい眠気に襲われ、うとうとしはじめた。浅い夢のなか、往年の名作映画『猿の惑星』がチラっと頭をよぎった。

 寒霞渓に到着のとき、雨が降ってきた。蕭々と降る真冬の雨は人を芯まで凍えさせた。遠目で雨中寒霞渓の秀美なる景色を眺望していたそのとき、どこからか一匹の野生のサルが視界に飛び込んできた。凍える雨はだんだんとどしゃぶりに変わっていくなか、冷たく激しい雨粒に動じることなく、駿足で高い木に登り、遠方なる瀬戸内海のほうをずっと見おろしていた。

 ふと、気持ちが奮い立たされ、こう思った。

 野生で獰猛に生きよう。(了)