ようこそ、中国上海!
最新バージョン

Home >> 新着 >> 専門家 >> 銭暁波

ミーハーの身(二)

2016年 4月 22日16:21 編集者:兪静斐

  作者:銭 暁波

  前回の続きである。  

  飛行機や電車、長距離バスなどの交通機関にはときどき、気の利いた機内誌や、フリーマガジン、観光スポットのパンフレットなどが置いてある。それを読みながら暇をつぶすのが小生流の過ごし方である。

 いろいろな読み物の中、結構愛読しているのは日本航空(JAL)の機内誌『SKYWARD』である。月刊誌なので、余程多忙で頻繁に飛行機を乗り回しているビジネスマンでなければ、毎回違う内容を楽しめる。異国の風景や文化を取り上げ、また季節に合わせた歳時記などきれいな写真付きの文章は、空の旅を落ち着かせてくれる。中でも毎回最も楽しませてくれるのは「つばさよつばさ」と題されたコラムで、作者はあの『鉄道員』で1997年に第117回直木賞を受賞した浅田次郎氏である。氏のほかの作品をあまり読んだことのない小生は、このコラムをもって直木賞作家の筆力を知ったのであった。コラムは主に氏の実生活の中の場面が取り上げられ、ユーモアを交えて自嘲的な口調でそれを描いている。とにかく笑いが止まらないのである。こらえきれず静かな機内で忘我の境に入って声を上げて笑ってしまうときもあった。飛行機代の出費が多少かさんでも浅田氏のためにJALを乗ろう、というぐらいにその文章力に魅せられるのであった。

 ここでちょっと愚痴をこぼしたくなる。中国の交通機関もときどき読み物が置いてある。しかし、う~ん、比べるのが少々ためらわれてしまう。干からびた文章ばかりというか、宣伝の宣伝による宣伝のためのものがほとんどである。旅はロマンのはじまりという意識をもう少し重んじて読み物を作ってもらいたい。はい。愚痴は以上。

 小生もかつてコラムを書いた経験があった。  

十年も前の話だが、香港のある新聞に日本に関するコラムを月一の頻度で書いてくれと友人に頼まれた。ちょうど博士論文を作成している最中で、さんざん悩んだが気分転換ができると考えて話にのった。しかし、それ以来、苦しい日々がはじまったのであった。とにかくネタ探しに悩まされ、痛恨の極みである。お笑い芸人の如く、ネタ帳を常に持ち歩き(スマホがなかった時代)、アイデアがひらめくや書き留め、帰宅したら文章化する、その繰り返しであった。毎月の締切がきつく、巨額の借金を背負って細々と生活する債務者の気持ちがこれでよくわかったのであった。悩まされた日々が続き、それでもなんとか凌いで一年間書き続けた。もう一年どうかいわれたがきっぱり断った。  

  十年経って昔の心の傷がすっかり癒されたか、人間はいつも同じ轍を踏むというか、今度コラムの話がきたときに有頂天になって、またそれにのってしまったのである。

  さあ~今度はどれぐらい続けられるかね。お楽しみ!(了)