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第十八回 松山に住んでみた(五) 
2004年 10月 11日17:07 / 提供:

                                  趙星海

 松山に来た最初は、地元の人にも“なぜ松山を選んだんですか”とか“松山を選んだのはなにか理由でもあるんですか”とよく聞かれた。

 特別な理由はない。たまたま保証人が松山にいたから松山に来たわけだ。

 私が松山に来た時は10月の初めごろで、ちょうど季節のいい時だった。雨も少なく、爽やかな日が継いた。学校は週三回ぐらいで、後は自由時間だ。それで私は自転車に乗って、あちこちまわった。            

松山市街印象

  松山は小さな所だと言っても、四国ではいちばん大きな町だ。また、愛媛県の県庁所在地である。県庁は松山のシンボルとも言える松山城のすぐ近くにある。松山城は松山市街中心に位置している。山の上に建てられている松山城のまわりには木々が生い茂っている。ここは公園になっていて、面積も結構広い。後で分かったが、ここは花見の名所でもある。毎年桜の咲く頃になると、大勢の花見の人で賑わっていた。

  県庁前の通りには路面電車がちんがちんと音をたてながら走っていた。この通りには全日空ホテルや三越百貨店など近代的なビルが立ち並んでいて、松山も都会だなと思わせる。松山の繁華街は銀天街と大街道。県庁前から東へひと区間ぐらい歩いたら、右側にアーケードのある商店街が見える。この通りが大街道、大街道をまっすぐ行けば、銀天街に交差する。ここは東京や大阪の繁華街と比べたら規模は小さいが、同じくおしゃれなショップが軒を並べ、その賑やかさは大して変わらない。このあたりを私はよく歩いた。そして、非常に印象に残ったことが一つあった。

 ある日、私は自転車に乗って銀天街に来た。その日は何かのことで急いでいた。それで、ある店の前に自転車を置いたまま、店に入った。いや、入ろうとする時、自転車置き場を管理するらしい老人が現れ、私の自転車をそばにある自転車置き場に持って行って並べてくれた。責める言葉もなく、不満な顔をすることもなく、黙々と自転車を並べている老人を見て、私は恥ずかしく思った。すみませんと言いたかった。しかし、言わなかった。その勇気がなかった。 

 中国でも、店の前にはたくさんの自転車が並べられている。そして、それを管理する人がいる。それらの人は中年の女性が多い。自転車を指定した場所に並べなかったら、すぐ「おい、そこに置くな、こっちに置け。」と言う。女性の持つべく優しさはどこにも見えない。

  もう一つ印象に残ったことがある。街を歩いている時である。交差点をわたる時に時々左折の車に合う。その時は、車は必ず止まって私がわたるのを待ってくれる。最初は、私が立ち止まって、運転手に手を振った。「どうぞ、どうぞ、お先にどうぞ」と言う意味だ。しかし、ほとんどの車は私がわたるまで止まっていた。それには驚いた。こういう時に、中国ではほとんどの車は止まってくれない。日本と違って中国は右通行。信号が青になっても、右折の車が次々と通りすぎっていく。歩行者がわたるからと言って、待ってくれる車は少ない。右折の車が通りすぎってから、わたろうとしたら、信号が赤くなる。それで、その間を見て、わたるほか仕方がない。そうすれば、大抵の場合はわたることに成功。車も仕方なく止まってくれるからだ。でも、ちょっとでも躊躇ったら車の方がさっと通っていくのだ。要するに、こういう時は、勇気のある方が勝ちだ。

 松山に来てからは、私も交通ルールをきちんと守るようになった。ここの車はみなハイスピードで走っているから、赤信号をわたろうとしてもこわくてわたれないのだ。それに、青信号になると、気楽にわたれるから、そんなに急ぐ必要もなくなった。でも、自転車であちこちまわる私にとっては、不便なところもあった。ここは中国みたいに自転車用の道はないのだ。そして狭い道路に、車のスピードが速いから、歩道を走らざるを得ない。他の自転車もほとんど歩道を走っていた。交通ルールがそうなっているのかどうかは知らないが、交通ルールがそうなっていなくても自転車に乗る人は自然に歩道を走るようになるのではないだろうか。

 こういう不便を感じながらも私はやはり自転車に乗ってあちこちまわった。もう一つ私がよく行く所は道後温泉だった。道後温泉に入るためではなく、道後温泉の商店街をぶらぶらするのが好きだったからだ。

  道後温泉は松山市東北部のはずれにある。JR松山駅からバスか路面電車を使って来ることもできる。その終点が道後温泉駅。このあたりは松山中心地とはまた雰囲気が違う。まず昔風の道後温泉駅が目をひく。二階建てで、大きい建物ではないが、昔を思わせるユニークな形をしていた。道後温泉駅を左にして前方へちょっと歩くと道後温泉の商店街に着く。銀天街と同じようにアーケードである。違うのは、通り沿いには土産を扱う店が多い。百メートルぐらい歩いたら、通りが坂道になっている。

 さらに前の交差点を右に曲がる。左の方は店が少ない。右に曲がってさらに百メートルぐらい歩くと、黒い瓦葺きの木造の建物が見えてくる。藍染の暖簾に「道後温泉」と白い字で買いてあった。そこが有名な道後温泉本館だ。こんなに有名な所なのに人が案外少なく、静寂な感じさえした。でも、私はその静寂な雰囲気が好きだった。この静寂な雰囲気こそ道後温泉の魅力のあらわれではないだろうか。こんな静かな環境の中で一時をくつろげることができるのも松山に住んでいる人々の福運だろう。