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第六回 上海4月の風景
2003 -5 - 2   12:19

渡辺宏治

家の前にある一本の八重桜。身の丈ほどのその桜、気ままの伸びたその枝は、敏感に季節の移ろいを感じ取る。つぼみをつけ、花を咲かせ、異郷上海で一日中事務所にこもっている私にも、春の訪れを告げてくれた。そんな矢先、SARSがやってきた。

今や北京香港を始め、世界各地で人の命を奪い続けている。その存在自体、人々の恐怖を惹起する。完全な解決法はいまだ見出せず、しかも時計は回り続ける・・・。

三月。なにやら香港広東あたりですごい病気がはやっているらしい???このころはまだ他人事として遠く感じていた。

四月。北京でも感染者が出たようだ・・・WHOにより過小報告を指摘され、一挙に北京の感染者数は増大!このころから既に上海に住む人の心にじわじわとウィルスが侵入していった。

「上海にも感染者・・・」「隣のビルで・・・」「某大学の先生が・・・」尾ひれの付いたうわさはひとりでにこの街中を泳ぎ回る。当時は公式報道さえもひとつのうわさと同じレベルでしか感じられなかった。

『モーターショー期間短縮』『○○会議延期』『漢方SARS対策』???気が付くとテレビや新聞の半分以上はSARSに関する記事が占めている。

街の景色も確実に変わっていった。少し前までは一部の西洋人しかしていなかったマスクだが、このごろはすれ違う10人に1人2人は大きなマスクをして歩いている。ビルの入り口では体温を測定され、買い物に行くと売り子はみなマスク姿、いたるところで係員が消毒液を噴射している。道に痰を吐くと罰金(最近値上げされた)、路上の無許可屋台は消え、社員たちも出社するとまずうがい手洗い。いまや上海は超衛生都市に生まれ変わった!

私がかくも冷静でいられるのも、先のWHOの調査で、上海の感染者数に虚偽報告はない、と証明されたからであろう。それにより、上海の住民も、一時落ち着きを取り戻したかに見える。しかし、それは決して収束に向かう安堵を示すものではなく、これから始まる長い戦いに対する覚悟なのだ!

あの桜も、いまや若葉をいっぱいに蓄え、エネルギーあふれる夏を待ち受けている。

そして上海は、このまま病禍をやり過ごし、桜とともに笑って夏を迎えることができるのであろうか。それとも・・・。

 

 
 
 

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