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日本政局の新状況分析
2006 -1 - 26 15:38

  小泉内閣は年明け早々、新局面に直面している。2005年は総選挙大勝の勢いで攻勢を続けたが、年末から年始にかけて耐震強度偽造問題に加えてライブドア事件、牛肉輸入禁止と問題が噴出している。小泉政権は初めて攻勢から守勢に立たされているのが、新局面だ。さらに、靖国参拝問題を軸にしたアジア外交の立て直しが自民党総裁選挙の争点に急浮上し、これに公明党も加わっている。小泉政権が掲げた政策路線のほころびが一気に吹き出た形だ。野党は勢いづき、自民党内の反小泉勢力も連携をとりつつある。今後は野党の追及とメディアの批判の行方が鍵を握る。

 一、小泉政権にとって衝撃度の強いのはライブドア事件だ。竹中が進めてきた米国式市場至上主義、弱肉強食主義の象徴がホリエモンだった。竹中路線は、従来の日本型経済路線とは異にする。日本型経済は法律やルールを守って、官庁の許可の範囲内でしか行動しない。米国式は「違反でなければ何でもする」という考え方で、法律やルールを軽視、または無視する。

 ライブドアは元来、事業実態のない虚業である。株の付け替えと粉飾を繰り返して膨張してきただけだ。事業組合を隠れ蓑とし、法律の網をかいくぐってきたのである。プロ野球球団の買収やニッポン放送の乗っ取りなどは、全て経営倫理を無視し、知名度を上げるための乱暴な手段に過ぎなかった。

 さらに、ホリエモンを総選挙に担ぎ出し、刺客とした武部幹事長、竹中、小泉の政治的、道義的責任は免れない。竹中は選挙演説で「小泉、ホリエモン、それに私の3人で改革を進める」と宣言した。武部は「堀江君は私の弟です」とまで持ち上げた。小泉自民党は、株の虚業でのし上がったホリエモンをITの寵児としてもてはやし、総選挙の広告塔に使い、特に若者層の吸収を図ったのである。自民党の公認や推薦ではないが、自民党の責任は明白だ。

 捜査当局は、健全な資本主義活動にマイナスとなり、日本社会に金権主義、法軽視の風潮を蔓延させたホリエモンの存在を許すことはできなかった。昨年から内偵を進めていたが、9月に退陣を予告している小泉首相がレームダック(死に体)状態に入る年明けを狙って、強制捜査に踏み切った。狙いはホリエモンで、その先には村上ファンドや政治家も視野に入れている。ホリエモンの逮捕は早いだろう。なぜなら、長引けば証拠隠滅が進み、供述を合わせてくるからだ。それに最初の強制捜索直後から株式市場が大混乱し、世界的にも余波が及んだことは、捜査当局の想定外だった。株式市場の混乱・不安定化を長引かせないためにも早期の逮捕が必至だ。*注;ホリエモンは23日、証券取引法違反容疑で逮捕された。

 二、次に、牛肉輸入禁止問題は、小泉内閣を揺さぶるだけでなく日米間の大きな政治問題にもなろう。専門家や消費者団体の警告を無視し、米国の圧力に屈して、米国産牛肉の輸入を拙速で認めた小泉内閣の責任は大きい。対米追随政策の欠陥が食の安全面で表れた。輸入再開からわずか1カ月後に日本の最終検査で輸入牛肉に危険部位が見つかり、かろうじて水際で食い止めた。にもかかわらず、小泉首相や武部幹事長は「輸入許可はあの時点で正しい措置だった」と居直り、「日本の検査態勢はすばらしい」と筋違いのいいわけに終始している。これは許されない。しかも、米国の生産者や輸出業者は、米国内では生後30カ月未満の牛肉が出回っているが、日本向け牛肉は生後20カ月以内という制限が付いているのはおかしいと、逆の抗議をしている。まちがいなく、日米貿易問題に発展する。米国は在日米軍基地再編問題と絡んで日本での対米感情の悪化を心配している。小泉内閣は今度はうかうかと再輸入許可は出せない。だが、米国の圧力は強まってこよう。小泉内閣は米軍基地再編問題に牛肉問題が重なり、国内世論と米国圧力との板挟みに苦しむことになる。

  三、耐震偽造問題は、これも官から民へと規制緩和した政策の欠陥が出た。同時に、法律無視、人命軽視の実態が図らずも白日の下にさらされた。これは小泉政権の負の部分である。刑事捜査が進めば、世論の批判も更に激しくなるだろう。

 四、そして、靖国参拝問題をめぐるアジア外交の行き詰まりへの批判である。年明け早々から山崎拓が小泉外交への対抗軸を掲げた。安倍が「総裁選の争点にすべきでない」と沈静化を図ったことが裏目に出た形だ。これに加藤紘一もかつてのYK路線で連動し、言動を活発化させている。小泉・安倍路線に快く思っていない自民党内の関係者も緩やかに総裁選の争点として連携の声を上げ始めた。なんと言っても公明党の小泉外交批判が顕著化している。与党内で小泉外交包囲網ができていく可能性がある。中国は冷静に政局を見据えることだ。

 鍵を握るのは、野党の追及の仕方である。民主党は敵失による絶好の攻撃機を得た。だが同じベンチで内輪もめしていたところであり、内輪もめを棚上げして党内一致団結して小泉自民を追究すべきだ。社民党、共産党とも足並みをそろえて、野党大連立を組むほどの覚悟で立ち向かうべきだ。

 またメディアもきちんと本質を外さず責任を問い続ける必要がある。あれだけ小泉マジックに踊らされ、小泉改革を持ち上げてきた責任は大きい。小泉政権が日本社会にもたらした負の部分をきちんと指摘していくべきだ。

 小泉側は飯島秘書官を中心に、新たな対抗手段を画策しているだろう。この5年間に、不利な局面で意図的に拉致問題を持ち出して、支持率の回復につなげてきたことを忘れてはならない。小手先の目くらましに騙されてはならない。

(東京新聞論説委員:川村範行) 

 
 
 

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