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「労働契約法の実施における若干の問題に関する通知」の逐条解説=上海開澤(ジョイ・ハンド)法律事務所
2009 -5 - 15 17:50

上海開澤(ジョイ・ハンド)法律事務所

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 世界的金融危機の最中でご苦労されておられ、地球環境の温暖化が懸念されておりますが、目下のところ季節は確実に巡り、初夏となり新緑の季節となってまいりました。この先、地球環境がどのように変化するのか素人には難解ですが、人間を含め地球上のあらゆる生物にとって生存できる環境が続くことを願わざるを得ません。

今月は、当事務所が法律ニュース第54期、第55期の2回に分けてその概要を説明しました「労働契約法の実施における若干の問題に関する通知」(合計22条)について、一部のお客様から全体の分かりやすい解説提示のご要望もありましたので、改めて現実的に労働仲裁、訴訟にもたらす影響、並びに仲裁委員、裁判官とも意見交換し、情報収集したものを逐条解説の形に集約しましたので、ご参照下さい。

 

 

「労働契約法の実施における若干の問題に関する通知」の逐条解説

 

 

【重要度: ●●●⇒とっても重要     ●⇒比較的に重要      ○⇒重要 △⇒該当する場合に留意が必要】

 

重要度

項目

概要

コメント

労働争議(仲裁・訴訟)への影響

法律事務所など労働者との争議管轄

法律事務所、会計士事務所、ファンドでも雇用弁護士や他の労働者との争議は、労働仲裁・訴訟の管轄となる。

完全な歩合制弁護士は、民事訴訟の管轄となる。

 

既に実務上の判断基準を法規化したものである。

書面の労働契約を締結していない場合の処理

使用者に帰責しない不可抗力、想定外の状況、労働者が締結を拒否する場合は、2倍の賃金の支払い事項に該当しない。

立法者が想定外であった労働者が労働契約の締結を拒否する場合でも2倍を支払うのかという、特に会社が悩まされてきた問題が払拭された。

帰責すべきではない立証が重要。

実務上状況証拠でも会社に責任がないという判例が多い。

労働契約の変更

労働者の賃金明細、辞令なども労働契約の変更と見なされる。

 

既に実務上の判断基準を法規化したものである。

終身雇用について

    終身雇用の条件を満たしたものの、期限のある労働契約を締結する場合には、期限のある労働契約となる。

    医療期間、妊娠哺乳期間などにより労働契約を延長し、10年を超える場合は、期限の定めのない契約の締結条件を満たすことにはならない。

終身雇用になる条件をやや会社有利に解釈しているように見える。

但し、終身雇用の条件を満たし、期限のある労働契約を締結できたとしても、契約満了時に労働者から要請があれば依然終身雇用になる。

医療期間など延長事情を悪用するケースが激増しているが、再診命令権などを活用して、悪用する労働者に圧力をかけることが望ましい。

予告手当の基準

労働契約法実施条例第20条では、予告手当の基準を労働者前月の賃金としたが、この前月の賃金は、労働者の通常の賃金でない場合、遡って12ヶ月平均賃金にする。

立法時考えつかなかったことであるが、合理的な落ち着きだといえよう。

実務上、労働者が不満を持つ会社に対して、敢えて労働契約法実施条例では対立も見られ、労働仲裁委員会、裁判所が苦労していたが、これで基準は明確になった。

労働契約満期、但し服務期間が期限満了前である場合

会社に帰責すべき事由でない限り、労働者が労働契約の更新に応じるべきであり、これを拒否する場合には、約束している賠償金を支払う。

 

 

労働者が特別な待遇を享受し、途中解約した場合

自動車、マンション、住宅手当などの特別待遇を享受した労働者が、労働契約満了前に解約した場合、労働契約の不完全履行と見なし、比率に応じて会社に相応の待遇を返還しなければならない。

これも立法者が想定しなかった問題であるが、これで合理的なところに決着させたといえよう。

今まで正反対な裁決が見られるが、これにより上海地域で統一されることになる。

労働契約を解除又は終了し、手続き上の瑕疵がある場合

30日前をもって予告すれば、労働契約を解除又は終了できるが、予告期間が30日を満たさなかったなど手続き上の瑕疵がある場合には、違法な労働契約解除と見なされず、その相応の予告手当を支払うのみでよい。

すべて適切に労働契約解除・終了の手続きができないケースも多い中、会社の遵法コストを大きく軽減する条項となろう。

会社と対立する労働者が、会社の手続き上の不備をもって敢えて提訴する場合もあるが、労働仲裁委員会もこれをもって激増する労働仲裁・訴訟の件数を抑える意向が伺える。

●●●

労働契約、社会保険の適時、全額を支給しない場合

会社に悪意がある場合に、初めて労働者による労働契約解除事由と見なされる。

労働者による濫用を防ぐ条項であり、本来労働契約法実施条例での明記を期待されていたが、少なくとも上海地域で有効となろう。

賃金、社会保険などの計算が非常に複雑であったため、支給額が労働者の期待通りにならず、こじれるケースも見られる。

10

労働契約法実施前に既に有効となる労働契約の継続履行について

労働契約法実施前に既に有効となる労働契約が、約定した終了事由になった場合でも、勤続10年を満たすのであれば、労働者の要請で終身雇用になる。

 

 

11

●●●

会社が労働者に労働契約上の責任を要求する場合

仮に会社の規則制度が無効である場合でも、「労働法」の第3条第2項「労働者は労働規律と職業倫理を遵守しなければならない」などの規定により、労働者が依然としてしかるべき法的義務を負う。

会社の自主管理権に対して過度に干渉せず、労働者の行為が労働関係に対する影響の重大程度によって判断すべきである。

上海市裁判所も腐心して2008年の「労働契約法」ではなく、1995年の「労働法」を担ぎ出さなければならないほどまで、会社の規則制度の不備にて、明らかな法律、労働規律、職業倫理違反でも、これが労働契約違反としない歪みを正そうとしている。

上海市地域で指針的な条文であるだけに、その効果が期待できよう。

労働仲裁、訴訟の大半は、最初から就業規則に労働者のサインがあるかどうか、また就業規則に当てはまる条項があるかどうかの確認から始まっている状況は多少改善されると思う。

中央の立法者にも見習ってほしいものである。

12

●●●

(特定の)労働者からの担保について

「労働契約法」第9条は、労働者から担保を取ってはならないと規定し、募集時に適用されるが、労働契約履行過程において、労働者がより高い価値の財物を占有する場合、会社は労働者から担保を取得することは、禁止していないと見なすことができ、この条項が有効である。

管理職、財務など会社の重要な資産、財物を占有する職務である労働者から合理的な担保を採ることを認める。

これは、実務上重要な資産(現金、小切手、印鑑など)を持ち逃げされた会社の苦情が、上海市裁判所も耳を貸した結果で有り、一切担保を採っては成らない労働契約法を腐心して解釈したものである。

(関係者によると、これを制定する前に、やはり最高裁、労働部の意見をも打診し、黙認されている模様。)

重要資産を持ち逃げされているケースは、既に後の祭りとなるが、重要な職務に就く労働者に、入念に説明し納得させた形で、担保金を採ることが可能となる点は、画期的であり、会社にとって朗報であろう。

13

●●●

競業避止義務の約定が不明である場合

競業避止義務があるとしながら、補償金の支払いの約定やその基準が不明である場合、競業避止義務があると見なし、双方を拘束するものとする。

補償金の支払い基準は双方が協議の上、決めるか、会社は通常の賃金(年俸)の20%〜50%を支払わなければ成らない。

今まで約定が不明な場合、競業避止義務なしの判決とありの判決は、21であったが、これをもって上海市地域では統一されよう。

一方、補償金は裁判官の裁量権に余地を与える形で、年俸の2割から5割が妥当としたところ、また紛争の種を残すことにならないかと疑念も残る。

基本的に会社に有利と言えよう。

しかし、今まで競業避止義務を約定させても、あまりその必要がない労働者に対しても、とりあえず競業避止義務を明記しようとした会社は、見直しをしなければ、予想外の補償金負担を強いられることになるため、要注意。

14

同一労働同一賃金について

同一労働同一賃金の原則は守るべきであるが、労働者の経験、技能、積極性などによって差をつけることができる。

「同一労働同一賃金」はあくまでも理念的規定であることにした。

いつも自分よりよい賃金を支給されている同僚と比べる労働者の不平、不満を和らげ、納得させる重要な条項である。

15

労災労働者と労働関係を終了した場合の支給について

会社が法に従って労災労働者との労働契約を終了した場合、経済補償金のほか、労災医療補助金、身障就職補助金を支給しなければならないのは、労働契約満期、会社は破産、会社は期限満了前に解散、入社1年以内に労働者が書面の労働契約の締結を拒否する場合である。

労災の場合の支給を明確にしたが、依然として本来国が負うべき一部の負担を会社に押し付けているのではないかとの声が絶えないであろう。

 

16

退職年齢と養老保険の享受について

「労働契約法」第44条にいう「労働者が法に従って基本養老保険を享受した場合」、「労働契約法実施条例」第21条にいう「労働者が退職年齢に達した場合」のいずれも、労働契約を終了する事由となる。

「労働契約法」とその実施条例のそれぞれの考えかたのズレを統一したものである。

 

17

「労働契約法」第85条の労働行政部門の処罰について

「労働契約法」第85条の労働行政部門の50%〜100%の処罰権は、あくまでも労働行政部門による行政処罰の範疇であり、労働争議の範囲ではない。

労働行政部門の処罰権は、労働仲裁、訴訟の管轄外であることを明確化。

また、上海市労働局サイドでもよほどの事情がない限り、この処罰権の発動に慎重との考えがある。

既に実務上の判断基準を法規化したものである。

18

2008年1月1日「労働契約法」実施日に既に有効となる労働契約の経済補償金の計算について

    2008年1月1日前の規定により経済補償金の支給事項に属し、かつ平均賃金が上海の平均賃金の3倍を超えない場合、その平均賃金で計算する。

    「労働契約法」の規定により、経済補償金を支給し、以前の規定では総額が12ヶ月の賃金を超えてもよい場合は、そのまま計算するが、総額が12ヶ月の賃金を上限とする場合2008年1月1日を境目として、それまでの分は、以前の規定で(12ヶ月を上限で)計算し、それ以降の分は、新たに合わせて計算する。

    経済補償金の計算基準は、上海の平均賃金の3倍を超える場合、その3倍で計算することは、2008年1月1日以降に適用し、その前は適用しない。

    会社は、違法に労働契約を解除した場合の賠償金は、入社日に遡って計算する一方、計算基準は、上海の平均賃金の3倍を超える場合、その3倍で計算する。

かなり難解な条文であるが、「上海市労働契約条例」(20025月1日実施)第42条では、医療期間満了後復帰しても適任ではない場合、労働契約時状況変更によって解約する場合、整理解雇の場合、会社が破産・解散の場合には、経済補償金が12か月分を超えられると規定している。

 

19

会社再編、余剰人員処理の労働者の勤続年数計算

国、地方政府の規定により、再編し、又は余剰人員の安置などの規定により、労働者が労働契約解除手続きを経て、法律に従って経済補償金を支払った場合、相応の勤続年数は、計算されない。

 

 

20

合法的ではない整理解雇について

「労働契約法」第41条の条件を満たしていない整理解雇で、労働者が労働関係の回復を求めた場合、認めることができる。

リストラでも合意解除に基づく整理解雇は、法定の整理解雇にならないため、回避可能である。

合意解除の形をとっているリストラも、実際では解雇を認めた上、経済補償金の支払いを命じる場合が多い。

労働者が会社から嫌がらせを受けるのではないかと通常労働関係の回復を避け経済補償金を得たいものの、逆に敢えて労働関係の回復を求める労働者も少数ながらいるもので、これらの労働者は内心対抗心をもっているので要注意。

21

会社側の事由により関連会社に転籍した労働者の勤続年数計算について

「実施条例」第10条に規定する、非労働者側の原因で、会社が関連会社に転籍させた労働者は、(「実施条例」の発効日)2008918日以降にこれを適用する(経済補償金を支払っていない場合に連続計算する)が、その前であれば、当時の規定を適用し、勤続年数の連続計算をしない。

 

 

22

駐在員事務所の訴訟当事者の資格について

合法的に登記される駐在員事務所で、法律通り派遣会社経由で労働者を雇用する場合、労働訴訟の当事者とすることができる。また、法律通り派遣会社経由しなかった場合、民事訴訟の当事者とすることができる。

 

 

 

 

【全体的評価】

 

    「労働契約法の実施における若干の問題に関する通知」は、上海市裁判所が、去年の倍、2倍に増えている労働仲裁、労働訴訟中、仲裁委員(本来裁判所の管轄を受けないが、制定するときに、労働仲裁委員会からも意見を聴取したため)、裁判官が扱う案件の中で、代表的な争いをこのような内部指針の形で裁決、判決の効率化と整合性をはかったものである。

 

    これらの内容は、上海市裁判所も独断で決められないため、事前に中央に確認をした模様である。中でも何箇所かは実質上「労働契約法」に違反するように見えるがなんとか形だけでも「労働法」かその立法趣旨に合致するような条項が見られる。

 

「立法」の趣旨からみれば、国の法律となる「労働契約法」に違反するものが無効とされるが、労働仲裁委員、裁判官が実際の判断する際の指針とされるこれらの内容は、実質国の法律よりも優位となる。

 

    実際「労働契約法」、「労働契約法実施条例」の施行を受け、各省の高等裁判所でも曖昧な表現や労使間のアンバランスの調整に戸惑い、それぞれ上海市「労働契約法の実施における若干の問題に関する通知」と似たような内部規定を出しているところである。

 

また、最高裁も労働仲裁、労働訴訟の審理規定のドラフトを制定し、各省から意見を聴取しているところであり、近々裁判所系統で正式に公表することになっている。

 

 

 

 

 

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