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中国のグラファイト資源、20年以内に枯渇の恐れ
2014年 6月 18日14:33 / 提供:人民網日本語版

 2010年度のノーベル物理学賞の主題ともなったグラフェン(炭素原子から構成される単層シート状構造の新材料で、グラファイトから作られる)の応用が進められている。科学者らによると、この革命的な新材料は、電子産業を新たな発展段階へと進め、少なくとも1千億元(約1兆6000億円)規模の産業チェーンを形成する見込みだ。「中国経済週刊」が伝えた。

 現在発見されている世界の天然グラファイトの埋蔵量は約7100万トンあり、そのうち中国の埋蔵量は約5500万トンで77%を占めている。だが同じく世界の埋蔵量の70%以上に達し、同じく国家の戦略備蓄資源とされているレアアースと比べると、グラファイトはあまり重視されていない。中国のグラファイト産業の発展は順調ではなく、産業チェーンにおける原料供給者の位置に長期にわたって置かれている。

 中国グラファイト産業協会の会長(輪番制)を務める内蒙古日新集団の張彬董事長(会長)は、中国のグラファイト産業の現状を憂慮する一人だ。張董事長によると、グラファイトは工業発展に対して、レアアースを上回る重要な意義を持つ。産業の転換とグレードアップには、国家レベルでの重視を高める必要がある。

 5年前、エネルギー業界で長年活躍していた張氏は、51億元という巨額をグラファイトの精密加工に投資した。同氏の日新集団はその後、グラファイト業界で中国トップ、世界2位の規模に拡大してきた。

 グラフェンはその特殊な構造により、耐高温性や熱衝撃耐性、電導性、潤滑性、化学的安定性、可塑性など多くの特性を持ち、その応用範囲は幅広い。軍事工業や近代工業、ハイテク先端技術の発展に欠かせない重要な戦略資源でもある。「20世紀がシリコンの世紀だとすれば、21世紀はグラファイトの世紀だ」と予言する専門家がいる。

 ▽低価格の原料輸出、高価な製品輸入

 中国のグラファイト輸出価格は1トン当たり3000元(約4万8000円)から4000元(約6万4000円)の水準が続いているが、国外で加工?精錬したものを中国が輸入した場合、1トン当たりの価格はいっきに10万元(約160万円)から20万元(約320万円)へと跳ね上がる。

 中国税関の公表データによると、2010年、中国のグラファイト輸出量は約58.55万トンで、輸入量は7.6万トンだった。こうした輸出入の局面はすでに30年近く続いている。

 「国内の川下のメーカーが強くなければ、原料輸出の価格決定権が得られない。また自前の製品が市場で存在感を示していなければ、輸入製品の価格も相手の言いなりだ」と張氏は指摘する。「グラファイト産業のこうした局面を転換しなければ、20年もすれば中国のグラファイト資源が採掘し尽くされているということになりかねない」

 残念ながらこの言葉は大げさとは言えない。黒竜江省のある報告によると、中国には現在、千社近くのグラファイト企業があるが、資源の乱獲や豊かな鉱山ばかりをねらった採掘、粗放的経営、管理水準の低さなどの問題が蔓延しており、採掘と加工には秩序が欠けている。現在の採掘の方式と速度が続けば、国内で発見されているグラファイト資源は遅くて20年で枯渇する。そうなれば中国は、国外から高価なグラファイトを輸入することとなり、グラファイト大国はグラファイト貧国に転落する。

 黒竜江奥宇グラファイト集団有限公司の劉金柱?党委員会書記は、「グラファイトの一次産品の輸出価格は1トン当たり約3000元から4000元なのに対し、人工心臓の弁膜に加工すると価格は12万元(約192万円)に達する」と指摘している。

 また中国工程院の周玉?院士は、「中国はグラファイトの精密加工のコア技術を握っておらず、先端のグラファイト加工技術は米国?日本?EUなどの少数の国?地域によって独占されている。そのため中国のグラファイト資源には、輸出価格が低く輸入価格が高い、外国が採掘の代わりに購入を続けるという状態が長期的に存在している」と説明する。

 産業内の乱れは販売過程にも表れている。原料販売では、市場の秩序が乱れて価格競争が常態化することがあるが、こうした構造も低価格な資源の海外流失につながっている。

 ▽「全産業チェーンモデル」で初戦勝利

 張彬氏によると、グラファイト産業の問題は資金不足にはなく、市場不足にもなく、人材不足にある。

 張氏傘下の瑞盛新エネルギーは2011年、清華大学との協力を始め、微結晶グラファイトの精密加工の難関攻略の道に乗り出した。この協力では、微結晶グラファイトの等静圧グラファイトリチウムイオンマイナス極材料における性質と応用の研究が行われ、国内の空白が埋められた。同年にはさらに、中国科学院山西石炭化学研究所との協力で、高熱伝導グラファイト材料に関する取り組みがなされ、同分野で世界をリードする水準に到達した。2013年末には、グラファイトビニル基導電剤プロジェクトで清華大学との新たな協力が展開された。

 張氏はさらに、1千万元(約1億6000万円)を投じて国内で特許を買い、100人規模の科学研究チームと専用の実験室を設立した。瑞盛新エネルギーはすでに、10件余りの国内特許技術と12の主力製品を保有している。投入と産出の間にはまだ開きがあるが、2013年に瑞盛新エネルギーが6つの主力製品を打ち出すと、中国のグラファイト輸入価格は明らかに下がった。一方、スイス企業が長期的に独占していた導電剤製品は、瑞盛新エネルギーが同種の製品を打ち出した後、スイス企業の製品の中国への供給停止が今年1月に発表された。

 初戦勝利となったものの、「全産業チェーンモデルは始まったばかりに過ぎない」と張氏は気を緩めていない。

 張氏は2010年、内蒙古のグラファイト鉱資源の統合を始め、まだ大規模採掘が始まっていない中国唯一の片状天然グラファイトの大型鉱「内蒙古興和グラファイト鉱」を入手し、さらにバヤンノール市烏拉特中旗のグラファイト鉱を統合した。張氏はこれで、中国のグラファイト資源の5分の1を一手に収めた。

 張氏はさらに33億元を投入して、中国グラファイトハイテク産業バレーを建設した。張氏の将来的な計画は、中国唯一のグラファイト全産業チェーンの生産・開発基地を作ることにある。

 ▽レアアースにならった管理制御モデルを導入すべき

 張氏によると、中国のグラファイト産業は現在、他国によって左右される現象が目立っている。原子力発電所で使われる「等方性黒鉛」はほとんどすべてが日本の東洋炭素によるもので、1トン当たりの価格は約45万元(約720万円)するが、コス トは5万元(約80万円)に過ぎない。中国は長期的に技術の後進状態にあるため、価格の主導権は常に日米が握っている。

 張氏によると、企業の科学技術水準を高めるには、産業活動が行われる環境を規範化しなければならない。そのためには、国家と地方による業界整理と企業への厳しい参入規制が必要となる。

 埋蔵量が全国の60%に達している黒竜江省はグラファイトへの関心が高い。2011年、黒竜江省科学技術庁は、中国工程院の9人の院士と中国グラファイト産業分野の27人の専門家を組織し、グラファイト産業の拡大と強化のための方法と措置を検討した。また内蒙古自治区は、鉱山資源の統合によって小企業による低水準の採掘を制限し、大手企業を引き入れて投資を拡大し、まったく新しいモデルを創りだした。

 業界関係者によると、グラファイト産業の健全で持続的な発展を確保するためには、国家レベルでレアアース資源の監督制御のモデルを参照し、グラファイトの生産力を全国的に調整し、研究開発を奨励し、グラファイト産業の発展を統一的に計画しなければならない。関連部門は、グラファイト産業に対する支援を拡大し、グラファイト産業の統一的な計画を行い、グラファイト資源を保護しつつ開発することが当面の急務となる。

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