Home > ニュース > 上海  > ハイテック企業にシフトする中国=上海艾麗( ARI)『新年展望』(5)
ハイテック企業にシフトする中国=上海艾麗( ARI)『新年展望』(5)
2011年 12月 25日15:20 / 提供:

  最近まで「世界の工場」という呼び名をとどろかせた、中国沿海部の工場地帯では、いま、ローテック製品の製造業者にとっては、経営上の長期的な問題点が次々、浮き彫りになってきた。その多くの会社では原材料価格の上昇、銀行の貸し渋り、環境規制の法令順守強化、人件費の高騰に直面してきている。さらには、受注が減少してきたのだ。

 世界中、誰もが太刀打ちできなかったこれまでの「中国価格=低価格」の背景として、安い賃金、多数の労働者達の供給体制、タダ同然の土地、国有銀行から容易に低利で借りられた資金、電力や水といった生産要素の大幅な価格抑制があった。特に、大量労働者達の数、これは中国の人口構造のせいでもあったのだ。中国の生産年齢人口は既にピークを過ぎており、今後は減少していく。30年来の一人っ子政策がこの傾向に拍車をかけている。これまでに、安価な中国製品を使うことにすっかり慣れてきた日本や欧米の企業、消費者たちにも今後の中国製品価格はおおきな影響を及ぼしてくる。

 中国は「人類のほぼ5分の1」に相当する人々がこの地球上に住み、この生活水準を劇的に上げてきた。これまでのやり方は、もう通用しない。そのうえ、中国内では環境破壊や社会格差の急拡大といった深刻な問題も生まれてきた。これらは30年前、日本の政治、社会、経済問題と似ている。このことが中国内でも繰り返えされる。中国政府はこれまで何年もの間、製造業をバリューチェーンの上流にシフトさせる政策を推進し、国有銀行には小規模なローテク・メーカーへの融資を控えるよう積極的に促してきた。

 現在、中国の製造業の大部分は繊維のようなローエンド産業で占められていることで、コストの上昇や融資を十分に受けられない状況が続きはじめてきた。その多くのメーカーは技術の梯子(はしご)を登るどころか、徐々に自分の首を締めはじめている。温州の中小企業発展促進協会会長、周徳文氏は言う。 

 「中国の中小企業は今、存続の危機に直面している」「この危機は温州の企業に打撃を与えているだけではなく、国全体に影響を及ぼしている」さらには、中国の「一人っ子政策」のおかげで、過去30年間とめどなく流れるように見えていた若くて安い労働力も提供、この人口ボーナスは終わろうとしている。海外のエコノミストの中には、中国の生産年齢人口が既にピークを超え、それが沿海部の製造拠点での労働力不足を生み出し、人件費を急上昇させていると考えている。

 最近の中国の指導者層は、この国の経済の中の歪みの大きさを十分承知している。これまでの発展に大いに貢献してきたこれまでのモデル時代が終わりつつあることも、率直に認めている。 「中国は今、その発展において不均衡、不調和、そして持続不可能性という深刻な問題に悩まされている」。胡錦涛国家主席は最近の演説でこう語り、「我々は経済構造の戦略的調整、科学技術の進歩と革新、そして資源節約型で環境に優しい社会の構築を加速しなければならない」と述べた。これはローテック産業からハイテック産業への転換を意味する。

 日本では今から30年前に行われたのと同じ政策なのだ。このころ私は、ファインケミカル(高純度化学品メーカー)東京応化(株)の研究員として、アメリカに工場進出を命じられた。28歳の時、カリフォルニア州のハイテック地域、シリコンバレーに駐在しながら、アメリカのハイテック情報を収集していた。これはその後、日本の半導体産業・ハイテック開発技術(例、液晶・・・)の発展にも大きく貢献してきた。

 当時の巨人メーカー、IBM,イーストマン・コダック「Kodak」の研究所、彼らの主要な生産現場工場に立ち入りできた数少ない日本人でもあった。この背景になっていたのは、私は高校時代から数学、物理、化学などの専門性を身に着けていた。だから、米系ハイテック企業が主催していた、「ハイテック技術セミナー」で、講演者(アメリカ人・技術者たち)の中でいつも私だけが唯一、日本人講演者であり、ここで「日本のハイテック技術」を講演したり、日本のハイテック技術を紹介できる環境にあったのです。これらを英語で講演していていたので、アメリカの技術者に好感をもたれ、彼らに迎え入れられていたのです。これと同じようなことが今日、再び、中国で繰り返えされようとしている。過去の自分の経験を生かしていきたいと思っています。

 海外から中国内にハイテック産業を誘致するには各分野の専門的で高度な技術知識を自分の中で理解でき、その基礎知識をもっていることが重要と考える。これの無い人々(いわゆる文系のコンサルタント、証券、商社、銀行出身たち)がハイテク企業の誘致を試みてもかなりの困難が伴うでしょう。  

 これまでのローテック製造業(誰もが解る、有形の資産を移転)とは違い、ハイテック企業はとかく中小企業が多く、一社では海外進出は出来にくいし、海外の労務、会計、営業活動を独自では出来ないケースが多いのです。更に、それらの製品・企業を支えているハイテック専門企業・技術者達には彼ら独特のプライド(メンツのようなもの)があるのです。ここでは、これまでのような一般、企業通訳レベルではもはや通じない高度の科学的専門的用語の世界が待ち受けているし、その製品(これを“技術”と云う、無形の資産を移転)の真の理解は必要だし、無形の製品、企業・未開発のマーケットを海外「中国」に誘致する。このプランを組み立てるには、そもそも、ローテック企業誘致のようにマニュアルが存在しない世界です。過去の経験がすべての世界です。

(上海艾麗「 ARI」投資管理コンサルティング会社投資顧問の旗沢透)

関連記事