導入部「2010年の中国−歴史的転換点に立つ」
図は、2010年の中国経済総合指標である。世界ランキングにおける様々な位置付けから、中国が持つ多様性、並びに今後国家として取り組むべき課題が映し出されている。
まず、国家総合指標上では、名目GDPとGDPの平価購買力から、輸出入、投資受け入れ、外貨準備高、高速鉄道の総延長まで、中国は既に多くの分野で、世界1、2位の経済力を有する大国となっていることを示している。
一方、13.4億という膨大な人口で割った場合の1人当たりのGDPベースでは、これまでの改革開放の30年間に急速に増え続けてきたにも関わらず、まだ、先進国の10分の1ほどで、依然として世界の90位台にある。
中国が抱えているこのような構造的な不均衡問題は、右図にある以下の総合指標データからも、四つほど選び出すことができる。この四大構造問題こそ、「世界の工場」としてのGiant中国が持つ複雑さと問題解決の難度を増している。
1.HDI(人間開発指数)−世界89位。
この指標は、国民の生活と教育水準、出生率と平均寿命、仕事と居住環境等の国民所得水準を反映するもの。中国では地域経済格差によって、各地域のHDIのばらつきが大きい。
2.GINI(社会格差と不平等指数)−世界54位。
富が蓄積と分配過程中に生じる中国社会の格差を示すもの。41.5という指数は、軽度な社会不安を誘発する恐れのあるデータである。
3.経常収支の大幅な黒字−世界1位。
その大半は、在中国の外資系多国籍企業などが創出し、寄与したもの。中国系企業の多くは、これまで国際サプライチェーンの末端でローエンドな加工貿易に従事し、安い労賃しか得られていないのが実情である。かかる貿易不均衡があればある程、「世界の工場」の苦悩は深まるばかりである。この問題は、国際社会で最もやり玉にあげられやすく、また最も本質を見誤ることが多い重大な国際・国内問題である。
4.電力消費量−世界1位。
これは名誉なことではない。中国企業と進出企業も、経済成長と環境・資源・エネルギー面での利害共有者であり、省エネと持続発展問題へ共同に取り組む責務がある。
上記地域経済発展の格差、国民所得の格差、対外貿易不均衡、経済成長と環境・資源・エネルギーの制約という四大構造問題は、中国の更なる発展の大きな足枷となっている。四大構造の不均衡から再均衡への取り組みは、第2位経済大国となった中国の今後の大きな課題。
2010年の中国は、過去のGDP成長重視路線から、国民重視路線へと国家理念を大きく転換し、持続発展が可能となるGreen Growth方式の導入や産業構造の転換、高度化を図る歴史的な交差点に立った。(執筆者:成玉麟)
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