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「オバマ大統領のアジア歴訪と中米日“新三国志”状況 ―中米日、中日韓の新協力態勢確立を」
2009年 12月 3日10:32 / 提供:川村範行(日本日中関係学会理事、東京新聞中日新聞前論説委員、中日新聞社出版部長)
東方ネット主任(社長)の徐世平氏(右)と会談する川村範行氏=11月27日、東方ネットで

一、はじめに 

 本日のシンポジウム(11月末、同済大学で開かれた「日中韓三カ国民間交流国際シンポジウム」)が極めてタイムリーな時機に設定されたことを最初に指摘したい。

 中国、日本、韓国の2国間関係や三カ国関係、あるいは東アジアの地域協力を議論するに当たり、重大な影響を及ぼす出来事がシンポジウム直前に起きた。それはアメリカのオバマ大統領が11月19日まで日本、東南アジア諸国連合(ASEAN)、中国、韓国を歴訪し、新しいアジア政策を表明したことである。

 オバマ大統領は、アメリカが「アジア太平洋国家」であることを強く宣言し、アジアに積極的に関与していくことを表明したのである。同時に、オバマ大統領は、米中両国が一緒に21世紀の課題に対処することを明白にするとともに、アジアにおいて多国間組織に全面的に参加していくことを明言した。即ち、東アジアおいて、米中関係を軸にアメリカとの2国間関係及び多国間関係がこれまでより重層的、複合的になると予測される。我々はこうした新しい観点から北東アジア、東アジアの地域協力の在り方を再考しなければならない。

二、新三国志時代へ

(1)中米関係 

 オバマ大統領のアジア訪問において最も注目されるのは「中国重視政策」である。オバマ大統領は東京で発表したアジア政策演説で、「中国と相互の関心事項について実利的に協力関係を追求する。米中両国が一緒に21世紀の課題に対処できれば、両国にとって有益だ。中国の世界の舞台での役割拡大を期待する」と表明した。

 続いて、北京での胡錦濤国家主席とオバマ大統領による米中共同声明では、米中両国が地域的課題とともに地球的課題での協力関係に全面的に合意したことが特筆される。米中関係は「戦略的互信」を基に「21世紀積極合作全面的中米関係建設に共同努力する」段階に入った。21世紀の国際社会、地域社会が米中両国を中心に展開していく新しい時代を迎えたといえる。

 しかし、米中間には貿易摩擦、人権の二つの課題がある。お互いの国情を理解したうえで、対話と交流を通して解決を図っていくという対処が必要である。

(2)日米関係 

 オバマ大統領は訪日した際に、「米国と日本は50年来『対等で相互理解』に基づく、不滅の協力関係の精神を維持していく」ことを確認し、鳩山由紀夫首相との首脳会談では「安全保障と繁栄の基礎である同盟関係」の深化について合意した。

 また、日米共同声明では、地球温暖化対策や「核兵器のない世界」の地球的課題への取り組みを表明したが、米中間の「積極合作全面的米中関係建設」と比べて「全面的」ではないと指摘できる。日米安保条約は2010年に50年を迎える。09年8月の政権交代により与党の座に就いた鳩山由起夫政権はアジア外交重視を打ち出し、対米外交の見直しを掲げている。日米両国は沖縄普天間米軍基地問題などの安全保障の課題に直面している。鳩山政権は米国との間で安全保障面での共通認識を早急に確立する必要がある。日米関係の安定はアジア太平洋地区の平和と安定の基礎であるからだ。

(3)中日関係 

 中日関係は2006年10月に安部晋三首相の訪中により「政冷経熱」状態を突破し、戦略的互恵関係の時代に入った。08年5月に東京で胡錦濤主席と福田康夫首相との首脳会談により「戦略的互恵関係の包括的推進」に踏み出したが、中日両国は二国間関係を中心に地域的課題を含めて協力態勢を構築する途上にある。地球的規模への取り組みはまだ薄く、米中関係ほど「全面的」ではない。

 中日両国は直面している二つの課題がある。10月10日の温家宝総理と鳩山首相の首脳会談で、@餃子事件は日中食品安全推進イニシアチブの枠組みを作ることで一致A東シナ海のガス田開発問題は2008年6月の共同開発の合意に基づいて処理するーとした。

 この二つの課題は両国の国民感情への配慮が不可欠で敏感な問題であり、極めて慎重な対応が求められる。

(4)対ASEAN関係 

 オバマ大統領は今回の米・ASEAN首脳会談により、ASEANへ積極的に関与していくことを表明した。1970年代から日本がASEANに対してODA援助を通して関係を強化し、2009年秋には東京で日本・ASEAN会議を開き、経済援助による関与継続を表明している。21世紀に入り中国は自由貿易協定締結(FTA)を通じてASEANに影響力を強めている。米国のASEAN関与表明は中国に対する牽制の側面もあり、ASEANの一部首脳も米国の関与を歓迎すると発言している。

(5)“新三国志”状況 

 このように東アジアでは米国、中国、日本の三カ国が二国間関係とともに多国間関係を結び、多重的な関係を展開している。古代中国での魏・呉・蜀三カ国が鼎立した三国志に倣って、東アジアを舞台に中・米・日三カ国の“新三国志時代”が幕を開けたとみることができる。

三、地域協力の枠組み 

(1)アメリカのASEAN関与 

 地域的かつ地球的課題に対処するには、従来の二国間関係だけではなく多国間関係の取り組みが極めて重要である。オバマ大統領はアジア政策の中で「アジアと米国は太平洋で固く結びついている」「エネルギー安全保障や地球温暖化問題などの共通課題に取り組むため、米国はこの地域の国々と従来の同盟関係と新しい協力関係の確立を目指す」と表明。同時に「二国間関係に加えて多国間の組織の成長が地域の安全保障と繁栄を前進させる」と述べている。

 オバマ大統領は「アジア太平洋経済協力会議(APEC)は地域の商業,繁栄を促進する。ASEANは東南アジアの対話、協力、安全保障の触媒であり続ける」と捉え、「東アジアサミットに、より正式な形で関わる」と積極参加を表明した。具体的に米・ASEAN共同声明で「双方の協力拡充のため米・アセアン賢人グループの設置」をうたっている。

(2)米中連携 

 米中両国は今回の共同声明で「開かれた地域協力の枠組みの発展と改善を支持する」とし、「APECが地域の貿易投資の自由化を促進するにあたり、より効果的な役割を担うことを促す」「ASEAN地域フォーラム(AFR)が安全保障協力を強化することを促す」とうたい、APECとAFRの二機構については一致した見解をとったことが特筆される。即ち、東アジアにおける地域組織の在り方について、米中両国が基本的な認識のうえで足並みをそろえたとみることができる。 

 オバマ大統領は「中国との関係強化によって他の同盟関係が弱体化することもない」と日本への気配りを見せたが、実際は米中間の距離接近により、日米間の距離が弱くなった印象は否めない。米中日のトライアングル(三角形)は従来、日米間が最も緊密で、続いて日中間、さらに米中間の順に結びつきが低くなると見られていたが、これからは三角形の各辺が変化する可能性がある。

(3)東アジア共同体 

 鳩山首相の東アジア共同体構想はドイツとフランスの戦後和解を図るために設立された欧州石炭共同体を基にしている。あくまで日米同盟を機軸としながら、アジア諸国との戦後和解を含めてアジア外交を重視し、かつ米国と中国との距離を調整しながら協力体制を築いていく考えだ。「親米入亜」であり、決して「反米入亜」ではない。鳩山首相は11月15日のアジア政策講演で東アジア共同体構想は「貿易、投資、教育などの開かれた地域協力を原則に進める」としたが、2日後の11月17日の米中共同声明には東アジア共同体については全く触れられていない。

(4)日中韓のトライアングル(三角形) 

 日中韓三カ国は09年10月10日に北京で開催された三カ国首脳会談の共同声明で、「開放性、透明性、包含性という原則に基づき、長期的目標として東アジア共同体の発展、及び地域協力に引き続きコミットする」ことをうたった。

 三カ国の協力は1999年以来、10周年を迎えた。08年に福岡で初の日中韓首脳会談を実現し、連携の枠組みが一層固まった。今後も地理的に隣接し、歴史的な交流も深い日中韓三カ国が中心となり、北東アジアの地域協力をはじめ東アジア共同体形成など東アジアの地域協力へ主導的に取り組むことを求めたい。これは米国の積極的なアジア関与に対するバランサーの役割を果たすからである。同時に米中日の「大三角形」とともに、日中韓の「小三角形」が東アジア、北東アジアの平和と安定により重要な影響を及ぼすからである。

(5)日中間の地域協力 

 08年5月の日中共同声明では東アジアの地域協力の推進、北朝鮮の核問題を巡る六カ国協議のプロセスの推進を明言したが、東アジア共同体を巡り対立しないことも確認している。これは、05年12月に歴史上初の東アジアサミットにおいて参加国の範囲を巡り、中国がASEAN10プラス日中韓3を主張し、日本が10プラス3プラス3(豪州、印度、ニュージーランド)を主張して対立した苦い経緯があるためだ。

 今後も日中両国は東アジア(共同体)を巡る対立を避けるべきである。日本は安倍・麻生両政権のときに中国を封じ込めるような「自由と繁栄の弧」政策や、西側の価値観を共有する諸国との連携強化を目指す「価値観外交」を打ち出したが、これらは日中間の戦略的互恵関係とは明らかに矛盾する。アジアの平和と安定のため日中両国が対話協力のメカニズムを確立し推進することが当面必要である。

五、朝鮮半島の非核化

(1)朝鮮半島の非核化 

 北東アジアの安全保障にとって最重要なテーマは北朝鮮の核開発問題だ。今回の米中共同声明では六カ国協議を継続することと並行して、米朝間のハイレベルな接触開始について合意した。北朝鮮が六カ国協議に戻り、核不拡散条約(NPT)への復帰を含む以前の約束を守り、完全かつ検証可能な朝鮮半島の非核化を実現することをうたっている。

 温家宝総理が09年10月に北朝鮮を訪問し、金正日総書記との会談で6カ国協議を含む二国間、多国間対話による問題解決への姿勢を引き出したことを評価したい。だが、北朝鮮の出方を冷静に見極める必要があり、米朝間、中朝間の二国間協議とともに六カ国協議再開へ向けて、関係国間の連携協力を密にすることが重要だ。 

(2)核無き世界 

 オバマ大統領が09年5月のプラハ演説で「核兵器をなくすために米国が深く関与する」ことを宣言した意義は大きい。オバマ大統領は東京でのアジア政策演説で、核兵器が存在する限り「効果的な核抑止力を維持していく」ことを強調している。オバマ氏のノーベル平和賞受賞以降、核軍縮に関する国連安全保障理事会決議や米ロ核弾頭削減協定締結など進展を見せている。

 米・アセアン共同宣言でも「東南アジア非核兵器地帯条約」の実効性の強化を明記した。中国がかつて宣言したように、核保有国に対し核先制不使用を促すことも重要だ。日本が唯一の被爆国として、中国、韓国や米国と連携して核軍縮・核不拡散の推進を推進していくことを提唱する。

六、温暖化対策

(1)削減目標数値化 

 全地球的かつ地域的にも緊急に取り組まなければならない重要テーマが温暖化対策である。オバマ大統領はアジア政策の演説の中で、「米国を含む温室効果ガスの主要排出国は明確な削減目標を示さねばならない」「発展途上国は排出量を抑えるために実体を伴う行動を起こす必要がある」と求めた。

 また、米中共同声明では、「12月にデンマーク・コペンハーゲンでの国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP10)の成功に向けて共に努力する」と明言したが、削減目標の数値化は見送られたことは残念だ。

(2)共同開発 

 米中共同声明では、両国が今後5年間に1億5千万ドルを折半して出資し「クリーンエネルギー研究センター」をつくり、共同開発に取り組むことをうたったのは前進といえる。二酸化炭素の地中貯留(CCS)や風力・太陽光・バイオ燃料など再生エネルギーの具体的な技術開発を挙げており、技術開発の推進と実現に期待したい。それは雇用創出と経済成長にも役立つからだ。

 09年10月10日に北京で行われた日中韓首脳会談でも、持続可能な開発に関する共同声明として、日中韓循環経済モデル拠点の設立を探求していくことをうたった。米・アセアン共同声明では、米・アセアンエネルギー相会合を2010年に開催することを米国が提案し、積極的な姿勢を見せた。温暖化対策は急務であり、各国の思惑を超えて、削減目標の数値化などに連携協力して取り組むよう強く希望する。京都議定書のリード国である日本が中心となって各国により積極的に働きかけるべきである。

 日本は1960年代から70年代にかけて環境汚染に伴う公害対策に苦しんだ先進国であり、公害対策技術や法的規制制度などのノウハウを発展途上国などに積極的に提供していくことを提唱する。

七、金融危機対策世界経済へ深刻な影響を与えた金融危機への対応も重要なテーマだ。

 中国は金融危機にすばやく対応し、4兆元の緊急財政出動をするなど、回復基調にある。また、中国が主要20カ国・地域首脳会議(G20)で国際金融通貨制度の改革など主導的な提唱を行ったことは、国際金融通貨面でも中国の台頭を表した。

 米中共同声明で「金融危機に対してG20が役割を果たした役割を評価」と明記したことは、米国もG8に代わって中国が主導するG20の存在を認めたことに他ならない。米中間には現在、貿易摩擦が表面化しているが、対立を抑えることが重要だ。中国は米国債を大量保有しており、貿易摩擦の拡大により米国経済が悪化すれば中国金融にも悪影響し、国際的な影響が懸念されるからだ。そのためにも金融協力は益々重要になる。

八、まとめ 

 国際社会全体で伝統的脅威に加えて国際テロ、環境問題、伝染病拡大など非伝統的脅威が増大している。こうした脅威に対して、日米中及び日中韓の三カ国協力を一層緊密にする必要がある。

 私は日米中三カ国と日中韓三カ国に対して以下の5点を提唱する。@安全保障・防衛協議機関を設ける。A艦艇相互訪問、軍事演習、軍当局者の相互交流など軍事方面の交流を定期化する。B情報収集伝達など危機管理システムを設置する。C災害救助、海賊対策など共同活動を実施する。D環境汚染や公害などへ情報管理・支援機関をつくる。二国間関係、多国間関係が益々複雑多様化する新国際情勢の中で、重要な原則は、温家宝総理が11月18日にオバマ大統領との会見で語ったように「和則両利、闘則倶傷」「互信則進、猜忌則退」である。

 各国官民共同して地域的視野と地球的視野の複眼思考を以て、「対話、交流、合作を通して理解を増進し、食い違いを減らしていくこと」(11月18日付人民日報海外版「望海楼」)である。力と功利主義に恃む西洋覇道が21世紀初頭に限界を露呈したとき、仁義道徳(徳と和)を以て対処する東洋王道の道が開けてくる。地域的課題、地球的課題の解決に向けて、孫文が日本に呼びかけた王道を基礎とする「アジア的連帯」を再評価する機会である。

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東方ネット主任(社長)の徐世平氏(右)と会談する川村範行氏

【川村範行略歴】

日本日中関係学会理事、日中科学技術文化中心理事、名古屋外国語大学非常勤講師、同済大学亜太研究中心顧問、北京城市学院客座教授。1974年、早稲田大学政治経済学部卒業後、中日新聞社入社。編集局社会部、外報部各デスク、上海支局長(1995年―98年)などを経て、2003年から東京本社(東京新聞)論説室論説委員。07年6月から名古屋本社出版部長。著書に「日中関係の未来を築く」「アジア太平洋地区と日中関係」(ともに上海社会科学院出版社刊、共著)。

(写真撮影:章坤良)

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