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漢方薬
2002年 12月 23日15:37 / 提供:

 中国で漢方薬店に一歩足を踏み入れると、まるで小さな博物館の中にいるような錯覚を覚えることだろう。整然とした引き出しの中には、いろいろな種類の動物、植物、鉱物。精神安定剤として用いられる殊砂(辰砂)、琥珀、血行をよくする桃仁、紅花、鎮痛剤として用いられる熊の胆、発汗を促す麻黄、強心剤として用いられる朝鮮人参などが、細かく分類されて納められている。漢方医の処方はまことに不思議なものだ。数千種におよぶ動物、植物、鉱物の中からほんの数種類を選び、それを煎じるだけで良薬を作る。薬の匂いの立ちこめる漢方薬店の中にいると、このような古くからの医学の根拠はどこにあるのか、どのような理論をもとに処方されるのだろうかと、考え込まされてしまうことだろう。
中国医学の理論的基礎は、今から2000年以上も前にほぼできあがっていた。秦代に書かれた「内経」という書物は、古医学理論を集大成したものだ。漢代、張仲景の著した「傷寒論」は、今に至るまで臨床医学の宝典として用いられている。明代になって、李時珍の著した「本草綱目」には、1,892種類もの薬物が収録されている。これは世界薬学史上、画期的な巨著である。これらの書物はいろいろな国の文字に翻訳され、アジアおよびヨーロッパの国々の学術に計り知れない影響を与えたのである。

 中国医学は疾病に対して独特の分類方法を持っていて、西洋医学とは大きな違いがある。中国医学では、人生天地の間には小宇宙が形成されていて、生物の実質的本体は「陰」に属し、生理的機能や働きは「陽」に属していると考えている。生命現象の働きほ五つの機能系統に区分されている。「心」は、中枢を指揮し、優れた知恵となって現われる。「肺」は、身体の各種機能のそれぞれの範囲を規定するとともに、身体機能をコントロールしバランスを維持する。「肝」は、外界に対する体と情緒の反応であり、その働きをスムーズにする。「脾」は、全身の栄養と新陳代謝を司り、肉体を若々しく健やかにする。「腎」は、体内に精力を蓄え、エネルギーを運用する機能を持っていて、生命力と深く関わっている。こうした理論は、人体の機能システムの秩序を規定していて、「蔵象(内的現象)」と呼ばれている。

 自然界の季節の移り変わりと気候の変化は、人体に影響を及ぼす。その中でもっとも重要なものは、風?寒?暑?湿?燥?火の六つの要素である。極端に激しい、あるいは異常な天侯の変化は人体に害をもたらすので、「六淫」と呼ばれている。また、個人の情緒の変化、例えば、喜?怒?思?悲?恐?驚などが極瑞に激しい場合も、健康を損なうので、「七淫」と呼ばれている。外的な「六淫」と内的な「七淫」が互いに作用し合って疾病がおこるという理論が、中国医学における病因学説の主体を構成している。そして、「六淫」と「七淫」と「蔵象理論」とを合わせ、それらによって総合的に患者の体質と病気とを分析することにより、患者の心身のアンバランスを診断し、本来の正しいバランスのとれた姿に戻そうとするのが中国医学なのである。中国医学が関心を寄せる対象は「人」であり、「病」だけではない。「病」とは、心身全体のアンバランスが部分的に現れた現象にすぎないと考えるのである。

 中国古代に、「神農氏嘗百草」という伝説がある。神農氏は、古代氏族の指導者である。彼は、自然界のさまざまな植物が人間の食用になるか薬用になるかを知るために、自分自身を実験動物にして一つ一つ試み、そのために何度も中毒にかかったという。数千年来、中国人はこうした人体実験を絶えず行い、あらゆる事物の寒、無、温、涼などの性質、およびその作用の種類、部位、毒性、致死量などを身をもって見分ける努力を続けてきた。その結果、麻黄ほ、茎は発汗に効くが、その根は逆に汗どめに効く。桂枝は、温める性質があり、感冒の治療に用いるのに適している。薄荷は、冷やす性質があり、解熟などに適する−などということが、わかってきたのである。このような長い経験の蓄積は、中国伝統医学の大自然に対する理解と受容力を深めた。同じ原則に基づいて、居住環境?生活のリズム?飲食上のタブー?人間関係?言語動作などについて、患者に積極的にアドバイスすることによって、そのアンバランスを調整し、患者の心身のバランスと安定を回復させてきた。これを称して「中和を招く」という。これこそ、中国医学における患者を指導する最高の原則なのである。

 処方以外に、針灸も常用の治療手段である。このような治療法は、文字の発明に先立つほど古くから始められたが、漢代以後になってめざましく整備された。針灸の理論的基礎は、「気」を整えることにある。人体の「気」とは、一種の生物エネルギーで、それは経絡(生活体の基本になっている気血が体内を循環するルート)に沿って全身を循環している。経絡上の特定部位(いわゆるツボ)に針を打ったり、あるいはもぐさで灸をすえることによって、「気」のバランスを整え、体内の自然治癒エネルギーを刺激喚起し、治療の効果をあげることができるのである。1980年にWHO(世界保健機関)は、針灸治療によって治癒効果のある適応症を43種公布した。針麻酔を利用して、手術や無痛分娩を行うことは、もはや目新しいニュースではなくなっている。針灸の方法は簡単で、副作用も少なく、治癒効果のある適応症状も広範囲であるため、現代医科学界に針灸の研究熱を巻き起こしている。

 基礎医学の分野では、現代化された脈学の研究がある。 専門家たちは、圧力感知器を導入して古来から行われていた 「三指把脈(三本指で脈をとる法)」にとって代えるとともに、 脈信号を電波に変え、コンピュータにインプットして分析している。 その結果、数多くの重要な発見が行われた。これは伝統と現代とを 結びつけた独特の学問となっている。