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「“本を味わい日本を知る”作文コンクール2016」入賞作品 『断捨離』への手紙

2016年 12月 30日16:54 編集者:兪静斐

  雲南大学 龐昆静

 『断捨離』へ

 こんにちは。

 出会ったときはちょっと呆然としてしまいました。疑うまでもなく持っておくべき本といった感じで、ただその外観からは内容が想像できませんでした。あなたがやって来たのには下地が一応あります。そのころ講義で物体には生命があり、その生命の意味は人とのつながりにあると聞いていました。物を通してその背後にある人やことを見ることができ、博物館に並ぶ冷たい物体に人が足を止める理由もそこだと言います。そうして、日本文化のラベルが付いたあなたをお迎えしたわけです。

 日本文化で最も印象深いのは、物を大切にするということです。最初の選択を慎重にして、物と出会ったときの初心を重視し、その縁を大事にして、最後もなおざりにしないこと。あなたにこれほど引きつけられるとは思ってもみませんでした。高野山の宿坊に泊まったとき修行僧が生活必需品をとても大事に使っていたのを見て、それらの用品はシンプルながら大変な意義を持つものだと感じたそうですね。もちろん物の背後と人との間にある意味だけでなく、割と実用的な立場から、物品の整理を通して自分の心、本当の自分と交流し、つきあい、自分を探していくことを教えてくれているのでしょう。あなたはこうした方法を断捨離と呼んでいますが、私は整理術と呼んでいます。私が最初、多くの人と同じように、整理なんて誰にでもできることではないと疑っていたことをご存じでしょうか。整理法が違えば効率の良さも違うというだけではと思っていました。わざわざ本を書いて教える必要のあるものだろうかと疑問だったのですが、よく読んでから、あなたの独特なところに気づいたのです。あなたの言う断捨離とは、主に「物と自分の関係」を中心として物を選ぶことであり、断というのは自宅に不必要なものを入れないという断絶のことですね。捨とは家中に散らかるがらくたを捨てること。離とは、物に対する執念を離れ、物の束縛から自分を解放することですね。そのプロセスを通じて、目に見える世界から見えない世界へと足を踏み入れ、最終的に自分を深く徹底的に理解して本当の自分を受け入れ、魂の安逸に達することを伝えたかったのではないでしょうか。

 冒頭でその考えが分かり、確かに興味は湧きましたが、内心では不安でした。知識と感情のぎっしり詰まった本は最初こそいいものの、内容をよく検討せず鵜呑みにしてしまい、伝えようとしていることが曖昧なままでは時間の浪費になってしまうのではと心配だったのです。しかし思いもよらずあなたは誠実で、断、捨、離それぞれの目的と方法を一歩ずつ説明してくれました。実行可能な手順に細かく分けて、身体的行動を通じて心の歩みを進めるものです。時に心は動きたくないわけでもないのにぼうっとしてしまい、どう行動すべきか分からなくなります。時間の経過で心の負担が片付き、また動き出せるのかもしれません。

 あなたは実にシンプルですが、シンプルな中にも深い内容を持っています。そう、整理はとるにたらないことでありながら、その背後にある豊かな内容を知ることもできるのです。私たちは消費社会と呼ばれる時代に暮らしており、体のみならず心も物に囲まれた私たちは物にとらわれ、時には抜け出せなくなることさえあります。生活空間が占拠され、心の空間も縛られてしまうのです。また私たちはより多くを求め続け、生活のために足し算を続けていることが問題だとは気づいているかもしれず、もうやらないぞと自戒することも多いのに、似たようなことを繰り返してしまいます。そうした衝動を効果的に抑えて現状を変える方法については多くの人が話題にしていますが、生活の細部に立ち入った議論は少なく、行動も複雑で、認識を繰り返す中で実際に研究と分析をしているのは、まるで生活のこまごまとした煩わしいことと結びつけては本の意義をなくしてしまうかのようです。時として知識は心を縛るのだと強く感じていました。そこをあなたはよくやってくれて、学習を続けることは知識の蓄積であり、学んだ知識で自分の生活をよりよく、心を寄り自由にするための方法を学ぶべきだと教えてくれました。

 もちろん、心配なこともあります。断捨離がうまく運用されると物の需要が一定の範囲に抑えられることになりますが、そうすると工業の発展や国民経済の成長に影響しないでしょうか。私が心配なのは、今の経済、社会、文化の発展で数を追及する発展は最終的に衰退する運命にあり、置き場のない無数の心は何を捨て何をとるかです。あるデータによると、2013年現在、全世界で200年を超える企業は日本に最も多く、3146社あって、ドイツに837社、オランダに222社、フランスに196社あります。旅行シーズンになるたび、中国の観光客が日本で電気炊飯器や便器などを買いあさっているというニュースが次々と舞い込んできて、思わずその背後の意味を考え込んでしまいます。まずまずの答えとしては、日本がたゆまず伝承してきた「職人の精神」です。しっかりと、落ち着いて、絶えず改善して、すばらしさを追求するといった時代の気質が物を通じて感じられます。ひとつひとつの物の背後にあるのは日本人という民族の性格で、一生に一つのことをやり通す人となりです。寿司の神と尊称される小野二郎は簡単な食材を選んでごくシンプルな純粋さを求め、豊かな味わいを創りだし、その寿司店はミシュラン三つ星の栄誉に輝きました。たかが寿司でもその複雑さには想像を超えるものがあります。食材から工程まで、ご飯を炊くときの圧力、時間。酢飯を保温する具体的な温度、魚を締める時間の長さ、タコを握る強さ、にぎり寿司の方法のいずれにも具体的な要件があります。まさにこうしたディテールと秩序を極限まで追及したことで寿司が美味になると同時に技能や姿勢を載せたものとなります。そして技能や姿勢がその生命の深さを絶えず押し広げて行くからこそ、時間の試練に耐えられ、末永くのれんを守り、情感を長続きさせられるのです。

 この手紙を書いていて、あなたの置いてある本棚を見上げると、お互いの存在が前と少しは違っています。あなたのおかげで私の生命の厚みが増し、私があなたの存在を温めています。今のような落ち着きのない社会で自分を守れと絶えず私に注意し、小さな土地の上で、生活を土壌に、時間を栄養に、集中を力にして、私の命の中で美しく色とりどりの花を咲かせてください。