ようこそ、中国上海!
エコで未来を共有

Home >> 新着 >> 専門家 >> 銭暁波

立ち食いそば屋とフェミニズム(一)

2016年 7月 13日16:09 編集者:兪静斐

  作者:銭暁波

 日本の街を歩いていて、小腹が空いてくる。近くに温かい鰹節のめんつゆの香りを漂わせる立ち食いそば屋を見つける。暖簾をくぐり、一杯のそばか、うどんをすすって、十分もかからないうちにお腹も心も満たされ、村上春樹氏がいう「小確幸」を身をもって感じる。

 立ち食いそば屋、これはおそらく日本ではもっともポピュラーな和風ファーストフードである。「駅そば」とも呼ばれていることから、市街地だけではなく、駅の構内や、ときどきホームの上にも小さなお店があり、電車を待っている間に食事を済ませてしまえるほど、庶民にとって身近で便利な存在である。

 もっともお安いかけそばから、ちょっと贅沢な天ぷらそばまで、ほかにもかき揚げ、月見、わかめ、きつね、たぬき、とろろなど、どの店もほぼ同じような定番のお品書きが揃っている。麺類のほか、ご飯物のおにぎりや、いなり寿司、丼ものなどを提供するお店も多く、それぞれの好みに合わせたセットメニューも設定されている。ちなみに、小生は、かき揚げそばに愛着が深く、万年不動のメニューとなっているのである。値段はお店によって多少の差はつくが、ほとんどワンコインの500円でお釣りが返ってくるようなお手頃の価格設定である。

 そばやうどんにとって大事な面つゆの味は、関東と関西とではやや異なっている。関東では旨みを出すために鰹節を中心に使用していて、色も香りも濃いのに対して、関西は昆布だしが主流で、つゆの色が薄いのである。そばマニアの話によると、新幹線で関東から関西へ移動していると、駅ごとにつゆの味が異なり、徐々に薄くなっていくらしい。

 立ち食いは言い方からして、立って食することである。近年、座席やテーブルを設置するお店も増えてきているが、基本スタイルは、ところ狭しの店内で壁に向かって立って食事をする形になっている。

 立ち食いのルーツは江戸時代の屋台にまで遡ることができるが、立ち食いそば屋のチェーン店が流行りだしたのは六十年代半ばあたりらしい。都市部では地価の高騰によって、店舗面積が手狭なものにならざるを得ず、座席など十分に確保できないという当時の社会事情のもと、立って食べる形式が取られるようになった。また、座席を置かないことでお客さんの食事のスピードがはやくなり、お店としては回転率が上がり、コストが下げられ、商売繁盛につながるため、この経営の形が受け入れられたという。

 日本では立ち食いの形はそばやうどんだけではなく、立ち食い寿司や、立ち食いカレー、そして立ち飲み屋など多種多様である。新宿京王口から中央口に向かう途中、一軒の立ち食いカレーの名店があり、小生はかつて、通るたびにその独特の香りに誘われ、思わず立ち寄って、定番メニューであるポークカレーを注文してしまうことが多かった。

 日本の高度経済成長期に生まれた立ち食いという形式は、都会人の忙しい日常をイメージするものでありながら、日本の男性社会の象徴でもあった。

 なぜそういうかは、また次回考えていきたい。