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楽々落語(二)

2016年 6月 15日17:31 提供:東方ネット 編集者:兪静斐

  作者:銭暁波

 前回の続きである。

 小生はかつて、東京で暮らしたとき、よく一人で落語を聞きに街に出かけたりした。国立演芸場など大御所の高座にも聞きに行ったが、足繁く通ったのはむしろ下町の片隅に隠れている草の根の小屋である。たとえば、「上野広小路亭」にはよく行ったものだ。

 古びたビルの三階にある演芸場に入ると、せせこましい場所にずらりと椅子が並べられてある。お客さんがいっぱいでぎゅうぎゅう詰めの日もあれば、空席が目立ってしまう日もある。何しろチケットが安いので、リーズナブルな値段で長時間楽しむことができ、常連客が多い。プロを目指す若手の噺家が多く集まるところで、もちろん技芸のほうには未熟さが幾分残るが、おおやけではもろに出せないネタやときどき軽い色気話も交じって案外結構楽しいのである。場所が狭いゆえに、出演者と近距離で接することができ、場合によっては即興的に観客をネタにしてしまうこともしばしば。これもまた巷の小さな演芸場で聞く落語の醍醐味である。

 ちょっと無謀だったかもしれないが、小生は何度か大学の授業で日本語を学んでいる学生たちに落語を聞かせ、楽しんでもらおうと試みたのであった。比較的わかりやすく短い演目を流し、聞いてもらった。みなさんはまじめに耳を傾け、聞き慣れない特徴的な語りを一生懸命理解しようとしていた。さ、いよいよ落ちがきて、爆笑が起きるはずだが、案の定、全く反応がなかった。遅れて五秒から十秒ぐらい、まばらな笑い声が起きて、ひとまず安心した。伝統的な落語が難しかったら、入門編としてもう少し簡単なものにしようと、本編冒頭の「笑点」を解説を入れながら、学生たちに見せた。今度は映像の力もあってか、みんなはかなり楽しんでいた。

 日本の国技である相撲では国際化が進み、今や日本の力士というより外国の力士のほうが人気を誇る時代になったといえよう。相撲ほどではないが、伝統芸能のほうも国際色が少しずつ豊かになってきている。言語表現を中心としている落語の世界においても、ことばの壁は非常にあついとはいえ、それを突き破ろうと敢えて挑もうとする落語家がいるのである。

 日本の伝統芸能にふれ、落語を楽しむようになり、さらに自ら挑戦し、落語家を目指す外国の人も少なくない。たとえば、カナダのトロント出身のグレッグ·ロービック(Greg Robic)さんはその国際色豊かな一人である。落語が好きなゆえに、桂三枝(かつらさんし)師匠に弟子入りし、桂三輝(かつらさんしゃいん)という芸名をもらって、住んでいる三重県を中心に活動を展開しているようである。

 一方、すでに故人となった桂枝雀(かつらしじゃく)師匠は英語落語の先駆者であるといえよう。日本の笑いを世界に普及したいという意気込みではじめた英語落語は、西洋の世界でも人気を得たようである。今ではその衣鉢を受け継いだ若手落語家もさらに英語落語の演目を増やし、より一層日本の伝統芸能を世界に広めようとしている。

 漫画やアニメなど日本のサブカルチャーは世界中を魅了している。また、伝統芸能の歌舞伎などもその華麗さで魅力全開である。しかし、落語は古臭くて地味だし、ことばの壁もあるため、若い人はなかなか近寄らない。だが、日本文化の基盤である庶民の生活や日常を身を持って感じたければ、落語は案外、一本の近道であるかもしれない。

 さて、ここまで書いてさすがちょっとくたびれたので、久しぶりに談志師匠の毒舌落語でも聞いてみようか。(了)