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若くない若者ことば(二)

2016年 5月 6日17:28 編集者:範易成

作者:銭 暁波

 前回の続きである。

 若者ことばとされている現代の流行語には、実はかなりご長寿のものがある。前回挙げた「やばい」のほかに、「まじ」「へこむ」「きもい」なども「若くない若者ことば」の類に属するものである。  

 「まじ」は若い人たちの間でよく使われる会話表現である。要は「本当」「本気」「冗談抜き」という意味で使われている。「マジヤバイっすよ」なんて「やばい」とよく一緒に用いられる。「まじ」は「まじめ」を短縮した言葉とされ、その誕生も「やばい」と同じように江戸時代まで遡ることができる。  

 たとえば、江戸時代において市民の間に流行った遊里文学の一種である洒落本『にやんの事だ』(1781年)には「気の毒そふなかほ付にてまじになり」という文例があった。また、当時の芸人が楽屋で用いた言葉としてもよく耳にしたそうである。「まじ」の用法は時代を経ても現代のとさほど変化がなかったようである。  

 そのほか、「落ち込む」「気が滅入る」の意味として若い人たちがよく用いている「へこむ」という表現も「まじ」と同じように、江戸時代からあったことばである。意味はほぼ同じであるが、日本語俗語辞典によると、昔は一時的な軽い落ち込みとして用いた傾向がある。でも、今の若い人たちって「へこむ」を口にするとき特に真剣に悩んでいるようすもないのではないかな。

 「きもい」は「気持ち悪い」の略語とされ、造語の手法からみても、意味合いからみても若者色が強く、典型的な若者ことばであった。しかし、その「きもい」ということばも江戸時代からあったらしい。だが、当時では「気持ち悪い」という意味ではなく、むしろ「狭くて窮屈」という意味合いで用いられたようである。一例を挙げると、「檜の匂ひ きもい畳の 窪みふむ」というような使い方がそれである。語形は同様でも、語用的には別の語彙である。

 以上、若い人たちがよく口にすることばでありながら、実は遥か昔の江戸時代にあったいくつかの語例をまとめた。

 最後に、かつての教え子であった日本人学生が教えてくれた若者ことばを一つ紹介したい。「ディスる」である。英語disrespectからきたらしく、「侮辱」「軽蔑」「批判」「否定」するという悪口の意味で用いられているようである。造語の手法からみて日本語の特徴を活かした若者らしい言葉のつくり方である。教え子も職場で聞いてきたばかりのことばなので、比較的に新しい若者ことばではないかと思う。

 さ、このコラムも若い編集者にディスられないよう、踏ん張っていくからね。(了)