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若くない若者ことば(一)

2016年 4月 28日16:32 提供:東方ネット 編集者:兪静斐

  作者:銭 暁波

 東方ネットの若い編集者とのやり取りである。

 「銭先生V5、読者の反応は上々ですよ。」

 「ありがとうございます。V5?このコラムってランキングがあるんですか。」

 「いいえいいえ、V5っていうのは中国語の『威武』の意味ですよ。」

 思わず失笑してしまった小生だが、いきなり歳食ったなと実感したのであった。

 確かに白髪が増えるし、老眼もとっくにはじまったので、初老といえばすでにその一線を越えたかもしれないが、まだ一応中年の手前である、と根拠のない安心感があるし、心の中では「永遠の二十五」だと必死に叫んでいる。でも、ことばでは紛れもなく若者のそれには追いつかなくなってしまっている。この間も卒業生たちが遊びにきて、中国語のネット流行語を連発したが、「なんですか」と不思議に聞き返したら笑われてしまった。

 中年男をいじめるな、と心の中で憤慨していても顔では笑ってごまかそうとしていた。

 若者ことば、それはどの言語にも存在する現象の一つであろう。使用者の年齢の境界線がきびしく、いわば若い人たちの専売特許である。

 若者ことばには流行性があって、どうしても期限付きで、比較的寿命が短いものが多いが、中には古くから使われ、現代において新しく生命力を得たものも少なくない。

 たとえば「やばい」ということばを若者はよく口にする。「危ない」とか「不都合」という意味で頻繁に使われている。しかし、それは決して今できたことばではない。川端康成の長編名作『浅草紅団(あさくさくれないだん)』(1930年)にはすでにそれが用いられたのであった。「この間お糸に紹介してくれたのはいいが、私と歩くのはヤバイからお止しなさいっていうんだ」。小説の文例をみると、今の使い方と全く違和感がなく、非常に身近に感じるのである。

 「やばい」の語源を調べてみると幾通りもの説があった。一説によると、江戸時代において、射的遊戯を経営する「矢場」の一部では裏は売春宿だったため、「矢場」は危険な場所を指す隠語として用いられた。また、「やば」はつまり「厄場」で、刑務所である牢屋のことを示す隠語であったため、「やばい」の語源とされている説もあった。ほかに「夜這い」から転じ「やばい」となったという説もあった。

 いずれにして「やばい」の語源を辿れば江戸時代まで遡ることができる。こうみると若者ことばとされている「やばい」は結局、歴史の香りのあるものである。ただ、ことばの意味は絶えず変化している点から見ると、今日「やばい」の意味合いは単なる「危ない」ではなくなった。「すごい」とほぼ同義で用いられている。

 「やばい」と同じように歴史の香りを漂わせている若者ことばは、ほかに「マジ」などが挙げられる。それについては、また次回、語ろう。