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だれが騎士団長?『騎士団長殺し』の翻訳者が交流会を開催

2018年 5月 15日17:18 提供:東方ネット 編集者:王笑陽

 林少華は中国の翻訳家で、日本の小説家·村上春樹作品の簡体字翻訳でよく知られている。だが、約10年前に村上春樹の作品出版権をめぐって、上海訳文出版社と新経典文化株式会社の間に争いが起き、この影響で林少華は村上の新作を翻訳できなくなった。それから9年後の2017年、上海訳文出版社はようやく『騎士団長殺し』の出版権を手に入れ、その訳を林少華に依頼した。林少華はこの契約が決まるとただちに田舎の実家に戻り、すべての訪問を断って『騎士団長殺し』の翻訳に全精力を傾けた。

 そして2018年3月1日、村上春樹著、林少華訳の『騎士団長殺し』(中国名:《刺杀骑士团长》)が上海訳文出版社によって正式に発売開始された。初回70万部を発行したが、売れ行きが好調ですぐさま増刷が決定された。今年のベストセラーになるのはおそらく間違いないだろう。

  上海訳文出版社刊行《刺杀骑士团长》

 9年間村上の新作を翻訳できず、「翻訳料をもらわなくても訳したい」と語った林少華。田舎の実家にこもり、85日かけて1600枚の手書き原稿を完成させた。彼はその時の生活について記者に対し、「1時間の昼寝を除き、朝6時半から夜11時まで毎日働き続けた。1日平均7500文字を翻訳した」と語った。

 また、翻訳を終えて家を出た時の気持ちについて林少華は「晴れ渡った空に白い雲が悠々と漂って、花や草や樹木などは日光に照らされ煌めいている。夏の生クリームケーキのように、気持ちよかった」と形容した。1989年の『ノルウェーの森』の翻訳の時から、パソコンを使わずに手書きで翻訳してきたそうだ。

  林少華

 このほど、林少華は上海図書館で、『騎士団長殺し』の解読や翻訳時のエピソードなどについて語る読者交流会を開いた。

 この小説の主人公である「私」は、36歳の時、人生の大きな節目を迎える。妻から離婚話を持ちかけられ、友人の父親のアトリエに借り暮らしすることになった。「私」はアトリエの屋根裏に『騎士団長殺し』というタイトルの日本画を発見した。そして様々な不思議な出来事へが起こった。深夜にアトリエ裏の雑木林から鈴の音が聞こえるようになったり、白髪で肖像画を描いて欲しいという男が現れたりし、さらに、騎士団長も現れる。

 林少華によると、この小説はモーツァルトが作曲したオペラ『ドン·ジョヴァンニ』と繋がりがあるそうだ。『ドン·ジョヴァンニ』の主人公である放蕩者のドン·ジョヴァンニは、夜這いのために騎士長の娘のドンナ·アンナの部屋に忍び込んだ。彼女に騒がれたため逃げようとしたところへ騎士長が登場し、ジョヴァンニに斬りかかるが逆に殺されてしまう。

 以前ネットで林少華の翻訳版と施小煒の翻訳版をめぐって、原文に対する忠実度についての論争が起きた。交流会で林少華はこの件に言及し、「皆が関心を持つのは、私が訳したのは100%の村上であるかどうかという問題だ。主観的に私自身はそう信じているが、客観的に見るとそれが90%になるかもしれない」と答えた。

 彼は「文学の解読または翻訳には100%の忠実は存在しない。読者によって解読の仕方は異なり、さらに誤解もあるかもしれない。だがそれこそが文学の魅力だ」と述べ、「『ノルウェイの森』のような長編文学作品はともかく、“I love you”のような短い文の訳し方さえ人によって異なるものだ」と語った。