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中日は「肯定的な側面」を如何に増進するか

2016年 5月 23日15:55 提供:東方ネット 編集者:兪静斐

中日は「肯定的な側面」を如何に増進するか

シンポジウム休憩中、話し合う出席者ら

 上海市人民政府新聞弁公室、在上海日本国総領事館、NHK、東方ネット、上海テレビ局など両国の全国·地方主要メディア12社、支局長·記者計17名の参画注目の中で、上海海外聯誼会主催の「TPPと中日経済貿易関係」シンポジウムがこのほど、同聯誼会本館ビル2階大ホールで行われた。

  シンポジウムの会場様子

 開会スピーチを行った上海海外聯誼会趙衛星執行副会長(中)

 司会進行を行った徐静波同聯誼会中日分会副会長·「中国経済新聞」発行人(左)

 講演内容を真剣に聞き入れている来場者(右)

 登壇した上海国際問題研究院呉寄南研究員は、基調講演·パネルデスカッションの中で、中日外交関係の現状と展望に焦点を当て、次の見解を述べた。

  基調講演とパネルデスカッションでスピーチ中の呉寄南研究員

·2012年9月の野田内閣時の尖閣諸島の国有化以来の日中関係の紆余曲折を経て、習近平·安倍首脳会談にようやく辿りついたが、安倍政権の参院選を通じての憲法改正動き、中国を中心対象とする安保ガイドラインの実施、南シナ海関連でフィリピン、ベトナムへの日本軍艦の寄港、同海域における軍事的プレゼンスの強調、更に米国、フィリピンと共に、中国古来の南シナ海領有権の九段線主張に対する国際仲裁茶番劇の主導、国内では与党側の一強と野党側の多弱、及び政権内の安倍首相への権力集中による強権体制に対する議会民主主義牽制力の低下などの内外要因で、ナショナリズムを煽ぐ土壌が生じており、中国などの近隣国との外交関係に緊張感が生じている。

·とりわけ、中国の大きな不満を買い、両国間の新たな緊張関係を生じさせているのは、上記日米主導の国際仲裁茶番劇に於ける非関係国である日本の動きである。日本と中国の間に、1943年のカイロ宣言と45年のポツダム宣言を受入れた日本は、釣魚島(日本名尖閣諸島)などを放棄し、同島の主権が中国に戻ったはずの「釣魚島問題」という二国間領土領海紛争の現存当事国であり、本来、紛争当事国出身の前国連海洋法裁判所長であった柳井俊二氏は、国連仲裁裁判所の仲裁員指名権利行使を回避すべき立場であったが、日本自国の私利を図る為に、国連海洋法裁判所長の立場を利用した同氏は、5人仲裁員構成の仲裁法廷の4名を指名した結果、国際仲裁のあるべき公正公平性に大きな疑問符と汚点を残した。また、フィリピンが依頼した仲裁申請は、所定の当事国間協議手続きも経らない同国の不法仲裁訴訟であり、それを受付けた国連仲裁裁判所は、紛争国家間の主権、領海に関する仲裁管轄権もないにも関わらず、管轄権を拡大解釈し、越権受理をした。フィリピン仲裁案を引き受けた米国のベテラン海洋法専門訴訟弁護団は、これもまた米国の太平洋覇権を維持するという国家利益の為と訴訟費金銭目当てで、同団が長けた訴訟テクニカルを駆使し、背後でフィリピンを支援している。

·更に来る5月26-27日、日本伊勢志摩で開催予定のG7サミットでは、日本は自国の議長国立場を利用し、4月の外相声明に続き、首脳声明でも中国の南シナ海領有権への非難干渉を強める。経済面では中日両国の総合国力の逆転による国民の対中嫌悪感が強く、また、米国と共にTPPによる対中包囲網を意図している為、中国の一帯一路、AIIBに対抗し続ける見通し。それが故に日中外交関係の対抗的な構造関係は今後暫く続く。

·一方国民同士の相互訪問、特に中国人の来日観光客数が500万人に近づき、両国の地方自治体や経済界間の交流が進化している。対抗ではなく、協力しあうようと願っている為、関係悪化の歯止めになっている。

·日中関係は再び不安定な局面を迎えることを回避し、前向きに進めるためには、互いに脅威とならない善隣友好の意思表示、安全保障面の戦略意図の疎通、内外政策の協調、国内外における経済協力の進化が必要と指摘した。

 続いて、「TPPと中日経済貿易関係」で登壇したスピーカーは、2015Fortune Global 500の125位にランク付けの多国籍貿易投資企業で、日本代表的な総合商社丸紅(株)の中日経済問題専門家である成玉麟氏。同氏は、日本記者クラブ会員で、中国シンクタンクトップ3の上海国際問題研究院院外上席研究員も兼務しており、今回のシンポジウムテーマである講演で、以下の各点に関する氏の最新研究報告書の要点を発表した。

  会場で研究報告書の要点を発表した成玉麟研究員

  成氏の基調講演·パネルデスカッションでの発表要旨

·4 Mega-regional trade agreements (MRTAs)の世界経済貿易システムへの影響

·TPPは日本にとって何故百年の計に相当する重要性を持つか

·中国はTPPに対処するためにどのような国家戦略を現在取っているか

·日米が主導するTPPと中国が主導しようとするRCEPの相関関係

·日中両国が他国·他地域における貿易投資構造から見るTPPが今後日中両国の経済貿易行方への影響

·両国のアジア地域における競争協力関係の現状と展望

·2015年の日中両国の経済貿易投資の特徴と趨勢を踏まえ、両国政府·経済金融界などへの今後協力し合える分野の政策提言

  成氏が報告した主要な政策提言のバックランドと提言ポイント 

1.TPP関連

·中国政府は過去自国がTPPへ参加すべきか検討した痕跡がある。当面の1-2年間は、国有企業の改革に精力的に取り組み、これまで尽力してきたFTAAP/RCEP/日中韓FTAのネゴ早期終了を図ろうとしている。それに加え、今年から、更に中国·EU、中国·南西アジア、中国·アラブ湾岸諸国、中国·アフリカ、中国·CIS/東中欧諸国との一帯一路プラットフォームによる第3Mega-regional trade agreements (MRTAs)の交渉も加速している。

 今後、アジア·太平洋地域のAPEC 21カ国をカバーするFTAAP(地域FTA)、「人民元の国際化(金融FTA)」、一帯一路(産業·インフラなどのFTA)という3つのグローバルFTA戦略フレームワークの統合運用で、TPPに対応していく。

·中国政府は、世界貿易投資システムにおいて、TPPが次世代FTAの基準を目指すものの、排他的な性格を持つMRTAでもあるとの判断に基づき、自国が積極的に参画主導しようとするFTAAP/RCEPでは、各MRTA間をより包容性のあるものにし、地域連携をより円滑に行うものを目指そうとしている。そこでTPPとの差別化を図ろうとしている。


·TPPでもRCEPでもまたは他のメガ自由貿易協定は、参加国の政治、外交、安全保障の思惑の他に、国際市場経済のメカニズムによって運用され、制約されるため、必ずしも政治目論見通りにいくとは限らない。現段階で、TPP/ RCEP/日中韓FTAは、それぞれ目指す目標は異なるが、幾つかの発展段階を経て、最終的にWTOの新しいグローバル枠組みの中で、相関関係がある各地域において乗り入れ、乗り換えできる寛容性のある経済システムとなる。

·今年TPP協定調印後に日本生産性本部関連団体が日本経済界に対し行ったアンケートの調査結果では、次回からTPPへ参加してほしい国の首位に企業側が中国を挙げている。米国の経済界からも同様な企業側の反応があった為、実体経済の担い手の願いは、関係国政府の思惑とは必ずしも合致しない側面がある。

  

·日中両国政府は、実体経済の担い手が願う互恵関係を強化する地域経済協力システムの構築へ協力すべきこと。

2.日中間の経済貿易関連

·2015年の日中両国の貿易額は、2,800億ドル弱で、2010年よりも低い水準に大幅落ち込んだため、政治対立は、両国の実体経済に害を与え始めた。

 一方、その貿易額データを詳細に解析すると、日本の対中貿易依存度(21%)は、中国の対日貿易依存度(7%)の3倍も高くなっていることを判明。両国貿易関係がこれ以上悪化し続けると、とりわけ日本の国益にとっても必ずしもよいものではない。

·中国政府(商務部)と日本政府(財務省)の両国投資関係の統計データが真っ向から対立している。特に日本の対中投資が減少しているという中国商務部の発表に対し、日本財務省のデータでは、3,850億円の中国からの投資引き揚げ額を差し引いても、15年度は1兆円以上の対中投資額純増があった。

·当社を含め、日中両国関係のグローバルステークホルダーズは、両国政府間のこの種のデータ相違に困惑しているし、投資判断に支障とミスリードを来たすものであると判断している。ミスマッチを解消する為の両国統計手法の改善と公表のタイムリーに関する政府間協議を直ちに開始してほしい。

·マスコミで報道している大規模な日本の対中投資撤退の動きも、データの裏づけはないもの。実体としては、日本の対中投資撤退率が日本の主要投資先5か国(米、英、中、蘭、豪)の中でも最も低い26.49%で、米76.79%、英65.68%、蘭52.78%、豪45.56%、日本対外投資の全体投資撤退率の平均76.64%に比べても極めて低い水準にある。日本財務省の当該データは、日本の対中投資は最も安定感があることを物語っている。

 投資市場の魅力という視点でみる場合に、日本にとって中国市場は、戦略競争関係のある国の市場であるにも関わらず、日本の在世界各国の中での対中投資企業数が最も多い。

 中国商務省が発表した2012年の日本対中進出企業数は、2.3万社、日本外務省が発表した2014年10月1日現在の対中進出企業は3.3万社弱であった。両国の国別投資企業数のデータ統計公表が時代遅れであるが、傾向が読める。

 日本企業の2015年の対中投資収益額は1.5兆円も上げたこと、また、2015年の中国観光客の訪日による日本の観光収益は、1.4兆円。中国関連のこのアウトとインバンド2項目だけでも、3兆円程の収益となり、内外需不足の中にいる日本にとって貴重な収益源となっているから、引続き魅力のある市場であることを日本財務省、日銀、外務省、観光局公表の各種データから判読できる。

·一方、2015年中国の対日投資は、同国の同年対外投資総額の0.2%程度と推定する。

 日本の同年対中投資額が日本の対外投資総額の6.7%という比率に比べると、中国の対日投資依存度がかなり低いことがわかる。

 中国は対内投資のみならず、2015年の対外投資の面でも世界トップ3の投資国となっており、非金融投資額では、1,180.2億ドル規模に達している。

 しかし、同年の中国対日投資撤退率は90%近い。世界の対日投資撤退額が投資額を上回ったため、外国投資者にとって魅力のある長期安定型の国内投資環境をより一層整備し、地方経済の活性化を図るためにも、日本は観光のみならず、対中投資誘致にも更に注力すべき。

·日中両国間、並びにグローバル市場向けのサプライチェーンに於いて、既に供給サイドの構造変化が生じていることに、両国の政府及び経済界の関係者はまだ認識不十分。これも政府から民間レベルまでの意思決定への影響を及ぼしている。

 日中両国の投資分野での協力関係は、既に30年以上の歴史があり、特に日本の主力6産業関連ではその関係が幅広く、深く結んでいる。

 近年来日中双方はグリーンフィールドとサービス分野でのM&Aによる株式取得投資/再投資が多く、日本の対中直接投資額の4・5分の1に占めるほど新たな投資形態となっている。

 一方、サプライチェーンにおけるバリューチェーンでは、例えば日中(含む大陸·台湾)韓間のスマホ関連で市場、R&Dとイノベーションのスピードにより、新しい下請け関係が今後生じてくる。

 これは究極的に日中両国企業の二国間·地域間、グローバル市場向けのサプライチェーンやバリューチェーンにおける主導権を握る鍵となる。

  

  パネルディカッション部の質疑応答の様子

3.日中両国以外の地域での経済連携関連

·NIES/ASEAN/EU/豪州/NAFTAは、両国の重要な貿易投資パートナーとしての上位5カ国·地域。

·日·中·アセアンのバイFTAでは、それぞれの往復関税品目数の最高カバー率を有する。また、この三角形域内の三者間取引濃密度の裏付けとなる投資額も日中とも最高レベルにあるゆえ、この地域での日中経済活動の実体を反映している。

·現在も今後もASEAN+1を中心とするアジア地域は、日中両国の政治、経済、文化外交の主戦場であり、経済競争と協力のメーンフィールドともなり続ける。

 現在交渉中の日中韓FTAは、世界GDPの21%の規模を持つ故、三カ国は、世界·地域経済の健全な発展に対し、責任ある立場にいることを自覚し、対外政策と貿易投資実務の両面で協調し協力することによって、貿易投資を行う際の国際·地域リスクと資本コストを軽減し、資本投資効率をあげるいわば真の互恵関係を構築する責務を持っている。

 両国は二国間及び地域経済連携の面で以下の各分野に協調し協力する素地がある。

3-1.財政金融分野

·国債の相互保有/通貨スワップ協定の有効性継続/自国外貨準備資産への相手国通貨の組み入れ/人民元決済インフラCIPSの利用拡大

·ADB·AIIB·一帯一路などのインフラ案件への円·元建て資金の提供(プロジェクト金融)、ADB、AIIB、他の国際金融機関が両国民間銀行団との円·元建て協調融資

·チェンマイ協議の多国化、AMRO(アジア版IMF)及びアジア債券市場の創設に関する政策立場協議の加速

·両国間の円·元建てによる貿易、投融資、起債、外貨等金融商品取引の一層の拡大

·両国民間銀行の海外店ネットワークの相互協力による両国進出企業の国際貿易投融資業務への円·元建て資金、決済等の金融サービスの提供

·東京に於ける人民元クリアリング銀行の創設/日本への人民元建て適格外国機関投資家

 (QFRII)の認定/日本企業の中国自貿区での金融サービス利用度の拡大

3-2.農業分野

·大中華食文化圏は日本の農林水産·食品の対外輸出の48%を占めており、シンガポールの3%を加えると50%を越える。しかし、その中対14億の人口市場の中国への輸出はわずか11%。中国は日本農業の国際化戦略にとって巨大な潜在市場としての重要性をもつ。中国も日本と同様により一層農業コストを削減し、自国農林水産業は、国際競争にも勝てるグローバルな第6次産業、農業を近代的な精緻農業への脱皮を図るべき。

3-3.越境ECとクロスボーダーチェーン小売分野

·日中両国は、在中国のコンビニ協力事業の経験を生かし、需要が高まっているアセアン、南アジアでも、中国IT業者と日本製造業者が得意とする越境ECも利用できるクロスボーダー共同事業へと発展進化すれば、上記両地域に対しより魅力のある多国サービスの提供が可能となる。

3-4.国際物流分野

 設立歴史の長短があるものの、陸空海の世界ネットワークを急スピードで構築している両国の代表的な物流業者がある。両国の海外投資企業が事業展開している進出先地域で、両国の物流会社が持つ輸送保管拠点ネットワークを相互利用できるようにすれば、物流整備コストの軽削減と輸送迅速化が向上し、輸送の安全性も高まる。

 特に今後3温度帯の輸送に大きな需要が生じ、小売や海外宅配の展開への支援ともなる。

3-5.ミャンマー等の海外工業団地·インフラ分野

 日中両国政府·企業のインドネシア、インド両国での新幹線·高速鉄道の受注活動、ミャンマー等の隣り合わせの海外工業団地、発電案件で激しく対抗し合った結果、敵意に満ちた競争から、両国誰も満足した結果が得られず、後味の悪いものとなった。今後政治外交の対抗意識に基づく敵対競争案件は、更に南米やアフリカ大陸へも拡散し、先進国での原発や航空機、高速鉄道案件などの受発注活動でも競争激化が予想される。

 両国の敵意を減らし、日中企業間が相互優位性を補完し合い、互いに敬意を持つ以下の分野での信頼醸成案件を実施すべき。

·中国で既に合弁実績のある繊維、電子部品、自動車組立てなどの労働集約型産業を今後第3国へ移転する際に、受入れ国での海外工業団地の共同建設と利用、企業経営資源のシェアとカントリーリスク、現地情報に関する共有

·特にChina+1のような産業に於いて、製造設備の搬出輸送、製品設計加工、受発注のICTインフラなどの共同利用、新規仕向け国へのブランド宣伝のCo-work

·国際企業としての管理理念と経験手法、国際複合リスクへの対処ノウハウ·教訓、国際人材の募集育成などの経験の共有

·将来TPP·RCEP枠内の政府調達案件への比較競争優位性を持つ両国企業の共同参画

·TPP·RCEPの制度設計上の相互乗入れを図ることにより、一帯一路の沿線国案件を両国自国内の経済活性化にも取り込む。

3-6.経済協力関係を熱望する両国の地方自治体と、相手国にいる80万人の両国の居住民は、民間交流と経済交流の重要な担い手となっている。特に大上海地域にいる6.2万の日本企業人とその家族達、また、東京圏にいる32万人の国際業務·人文資格を持つ中国在住者達が、両国の関係改善と交流を促進する為に奔走する貴重な人的資源である。

  司会者の質疑に答える成玉麟研究員

  (章坤良文/上海海外聯誼会、東方ネット、成建軍氏より写真提供)