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沖縄基地移設問題と安倍政権の対米従属の関係

2016年 8月 9日16:51 提供:東方ネット 編集者:範易成

上海外国語大学日本文化経済学院専任教員 林工

 対米従属の度合いをこれまでの政権以上に深化させる安倍政権が、民意を無視して沖縄への攻勢を強めている。 安倍晋三首相が目指す憲法改正に前向きな勢力が改憲の発議に必要となる3分の2の議席を獲得した今年7月10日の参議院議員選挙終了から10日後の同22日、政府は沖縄県東村高江のヘリパッド(ヘリコプター着陸帯)の移設工事の再開に踏み切った。22日早朝、移設予定地への進入口付近には反対派の市民ら約200人が集まり、機動隊ともみ合い現場は騒然となった。

 「この基地を本土へ持って帰れ」

 怒号が飛び交う中、座り込んでいた反対派の市民は次々と機動隊員に排除された。

 ヘリパッドは、沖縄県東村などにある米軍北部訓練場の一部返還の条件として、残存する訓練場内に6カ所設置されることが日米で合意されている。この6カ所がすべて高江地区という人口約150人の集落の外周部に配されることや、同ヘリパッドには“未亡人製造機”とも呼ばれる危険なオスプレイが配備される予定であることなどから、地域住民をはじめ反対派の市民がこれまで2年間にわたって進入路での座り込みを続け、反対運動を行ってきた。〈1〉

 並行して同22日、政府は沖縄県を再提訴した。沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡り、辺野古埋め立て承認取り消しの取り下げを求める是正措置に応じないのは違法として、政府は沖縄県を相手とする違法確認訴訟を那覇市の福岡高裁那覇支部に起こした。これまで政府と県は、今年3月の代執行訴訟の和解により辺野古の埋め立て工事を中止し、「円満解決に向けた協議」を続けてきた。ところが、普天間飛行場の移設先を「辺野古唯一」とする政府と、「辺野古移設阻止」を掲げる県の溝は埋まらず、政府は再度の提訴に踏み切った。

 地域住民の反対が根強い東村高江でのヘリパッド建設工事の着手、同じく8割超の県民が反対する辺野古での工事再開の構えなど、政府の沖縄に対する姿勢はここにきて強硬さをあらわにし始めている。なぜ安倍政権は、沖縄県民の意思に反し、かつ県を訴えるというなりふり構わぬ手段〈2〉を利用してまで、米軍基地の建設に突き進むのか。

 そのことを考える前に、まず日本政府と米政府とがどのような関係にあるかを見てみることにする。昨年7月に強行採決により成立した安全保障関連法案(以下、新安保法と略)の成立過程をみることで、その両国関係の本質が理解できるはずだ。2015年6月、憲法改正原案を議論する衆議院憲法審査会において、参考人として招致された憲法学者3人全員が新安保法制は「憲法違反」との判断を下した。自民党が招致した憲法学者までが「違憲だ」と指摘したのである。ところが、自民党の高村正彦副総裁は同審査会で、「憲法の番人は最高裁判所であり、憲法学者ではない」「私たちは、憲法を遵守する義務があり、憲法の番人である最高裁判決で示された法理〈3〉 に従って、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために、自衛のための必要な措置が何であるかについて考え抜く責務があります。これを行うのは、憲法学者でなく、我々のような政治家」〈4〉だとし、自分たちが招致した憲法学者らの判断を完全に無視したのである。なぜこのようなことが可能なのか。理由は単純である。安倍首相が米国と約束したからであり、米国がそれを望んでいるからである。安倍首相は2015年4月、米国連邦議会で演説を行い、同年夏までに新安保法制を成立させると宣言した。

 「日本はいま、安保法制の充実に取り組んでいます。実現のあかつき、日本は危機の程度に応じ、切れ目のない対応が、はるかによくできるようになります。この法整備によって、自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟は、より一層堅固になります。それは地域の平和のため、確かな抑止力をもたらすでしょう。戦後、初めての大改革です。この夏までに、成就させます」〈5〉

 しかし、首相が米国と約束したから、米国が望んでいるからという理由で、国民の反対を無視し、違憲の疑いのある法律を成立させることがなぜ可能なのか。実は、日本には二重の法体系が存在しているのである。そう指摘するのは、沖縄の米軍基地問題に詳しい矢部宏治氏だ〈6〉。二重の法体系とは、一つは日本国憲法を最高法規とする法体系であり、もう一つは日米間で取り結ばれた条約や密約といった約束事による事実上の法体系である。両者間に矛盾がない場合には問題はない。しかし、一旦両者間に矛盾が生じた場合には米国との約束事が優越し、日本国憲法を頂点とした法体系が機能を停止してしまうのである。特に在日米軍(基地)に関して両者が衝突するケースが少なくない。例えば、沖縄県の普天間基地や嘉手納基地をはじめ、神奈川県厚木基地や東京都横田基地などでの米軍機の爆音に対して、付近住民による訴訟が起こされたが、いずれの判決でも「損害賠償は認めるが、米軍機の飛行差し止めは棄却する」とされた〈7〉。このほかにも、米兵が公務中に冒した犯罪は日本側が裁くことができない取り決めが存在する。公務中でなくとも、日本の警察に逮捕される前に基地に逃げ込めば、逮捕することが非常に難しく、基地に逃げ込む前に逮捕できたとしても、ほとんどの事件で日本側は裁判権を放棄するという密約が日米間で交わされているのである。こうした例は、明らかに人権侵害であり、憲法違反であろう。ところが、国内法と「米国との約束事」が衝突した際、常に優先されるのは、憲法を含む国内法ではなく、米国との条約や密約といった約束事なのである。先の新安保法の成立過程においても政府が「違憲」判断を無視できたのは、米国との約束事が日本国憲法に優越しているためである。〈8〉

 ここで、冒頭の沖縄の米軍基地問題に戻ろう。政府が国としての権威をかなぐり捨て、沖縄県民の意思に反して、辺野古への基地移設を強行しようとするのはなぜか。ここでも米国との約束があるから、米国が強く望んでいるからというのがその答えである。政府と県との法廷闘争にまで発展した普天間基地の辺野古への移設に関して、これまで日本政府は、米政府の希望を実現させるため、さまざまな隠ぺい工作を行って県民(国民)を欺いてきた。米政府の希望とは、分散している基地機能を辺野古に集約し、飛行場·軍港·弾薬庫·訓練場が一体化した、空からも海からも出撃可能な巨大な軍事要塞を建設することである。しかもこのプランは、1996年の日米両政府によるSACO合意〈9〉より半世紀も前の1966年に「巨大海上基地建設案」として米軍によって既にまとめられていたのである。〈10〉ところが、そのことを日本政府はこれまで一度も公表せず、普天間の危険性のみを口実にする形で飛行場を移すだけと言い続け、真の狙いを隠ぺいしてきた。〈11〉沖縄の基地問題に深くかかわってきた市民運動家の真喜志好一氏はこう指摘する。

 「辺野古に基地機能を一体化させるための新基地をつくると公表すれば、県民の大反対にあうことは疑いようもない。それを避けるために、沖縄の基地負担軽減と危険の除去を口実にし、強力な賛成派を得るための世論操作をする必要があった。普天間基地の返還がまず発表され、その後に代替案として頃合いを見計らって辺野古案が発表されたのはそのため」(真喜志氏)なのだ。 〈12〉

 辺野古への新基地建設は米軍が50年越しで望んできた軍事戦略プランなのである。それゆえ、「地元同意がない移設先の代案が出ても交渉できない」としながら、移設先の名護市民が強く反対の意思表示をしているにもかかわらず、米政府は同市辺野古への移設に固執してきた。2009年、普天間基地の「県外移設」を公言してきた民主党(現·民進党)の鳩山政権が誕生した。鳩山首相が公約とした普天間基地の「最低でも県外への移設」に本気であることがわかると、米国のオバマ大統領は鳩山首相との会見を何度も拒否、さらに米国の有力紙『ワシントン·ポスト』は「(鳩山首相は)頭がおかしい」とまで書いた。〈13〉すると、米政府の意向を忖度した日本の全国紙を始めとする大手メディアも「日米関係が壊れる」と一斉に鳩山首相に集中砲火を浴びせ、日本人に誤った見方を広めていった。最終的には、鳩山首相の「県外移設」という日本の主権的な意志が米国の国家意思と衝突することを危惧した官僚や他の政治家らによって鳩山首相は辞任に追い込まれた。

 米国の利益のために自国民の生活や生命までも脅かす安倍政権は、対米従属をこれまでの政権以上に深化させつつある。その内容は、沖縄の基地移設問題だけではない。特定秘密保護法、武器輸出三原則撤廃、原発再稼働、集団的自衛権行使容認、TPPなど、安倍政権が進める一連の政策は、米国の民間シンクタンクCSIS(戦略問題研究所)が2012年に発表した「The U.S.-Japan Alliance  ANCHORING STABILITY IN ASIA」(通称、第三次アーミテージ·ナイ·レポート)〈14〉の提言をほとんどそのまま忠実になぞる形で進められてきたものであることが2015年8月19日の参議院特別委員会質疑で明らかにされた〈15〉。米政府の要請に対しては、日本国憲法を無視し、国民の生活を壊しても応えようとする安倍政権は、日本をどこへ連れて行こうとしているのか。

 沖縄で現在生じていることは、日本全体で生じていることの縮図である。そのことが努々忽略されてはならない。


注釈:

1、〈http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160722-00000015-okinawat-oki〉20160726アクセス

2、政府が行おうとしている行政不服審査請求は、「私人」の救済を目的としたものであり、「固有の資格」を有する国が行うのは異常である。

3、最高裁判所判決で示された法理:日米安保条約の違憲性が問われた砂川裁判(1959年)で下された判決で、日米安保条約のような高度な政治的問題については、最高裁は憲法判断をしないでよいとする判決。これにより、安保法体系は憲法を含む日本の国内法全体に優越することが法的に確定した。

4、〈https://www.jimin.jp/activity/colum/127966.html〉20160726アクセス

5、米国連邦議会上下両院合同会議における安倍総理大臣演説「希望の同盟へ」2015年4月29日,〈http://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page4_001149.html〉20160727アクセス

6、矢部宏治(2014)『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』集英社インターナショナル,pp42-52

7、前泊博盛(2013)『日米地位協定入門』創元社,pp130-140

8、白井聡(2016)『戦後政治を終わらせる』NHK出版新書,pp96-99

9、「沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会(Special Action Committee on Okinawa)」の英略。沖縄の米軍基地の整理·縮小を協議するために日米両政府が設置した作業部会で、96年12月に普天間飛行場に関する最終報告を取りまとめた。

10、〈http://www.ryukyu.ne.jp/~maxi/〉20160726アクセス

11、普天間基地返還を橋本龍太郎首相(当時)が発表した当初(1996年)、代替地として「辺野古」の地名はなく、「名護の東海岸」とだけ発表された。また、辺野古への基地移設に関しても、単なる移設ではなく、新基地の建設であって、軍港の建設や弾薬庫の新設などが計画されていたことを県民は全く聞かされていなかった。メディアでも十分に報道されておらず、地元の沖縄でさえ2011年時点で知らない人が多かった。(仲村清司「アメリカが辺野古移設にこだわる真の理由」『新書 沖縄読本』講談社新書,pp243-258)

12、同注10論文

13、〈http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/04/13/AR2010041304461.html〉20160731アクセス

14、執筆者の一人は、リチャード·アーミテージ元米国務副長官で、知日派の軍人·政治家。もう一人の執筆者ジョセフ·ナイ氏は元国防次官補で、同じく知日派。ハーバード大学教授。〈http://csis.org/files/publication/120810-Armitage₋USJapanAlliance₋Web.pdf(原文)〉20160728アクセス

15、「第百八十九回国会 参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会会議録第十号 平成二十七年八月十九日【参議院】」,〈http://kokkai.ndl.go.jp/〉20160728アクセス。或いは、〈http://iwj.co.jp/wj/open/archives/258755〉20160728アクセス